2010 Fiscal Year Annual Research Report
セラピーツーリズムと自己物語にみる<ライフポリティクス>の民俗学的研究
Project/Area Number |
10J07601
|
Research Institution | Kwansei Gakuin University |
Principal Investigator |
門田 岳久 関西学院大学, 人間福祉学部, 特別研究員(PD)
|
Keywords | セラピー文化 / 経験消費 / 自己アイデンティティー / 消費社会 / 生活史 / 聖地 / 人格 / ナラティブ |
Research Abstract |
本研究は「心」や「経験」を商品化する装置はいかなる社会的条件下で駆動しているのか,という近年の消費社会論・自我論(自己論)を取り巻く問題を背景に,セラピー的効用を謳うツーリズムを「セラピーツーリズム」として概念化し,それらへの参与観察や参加者へのインタビューを行うことで,消費社会に特徴的な自己や主体の形成過程を明らかにすることを目的としている。平成22年度は基礎的な実地調査とともに,情報社会論・消費社会論における主体・人格・自己論の文献を精査することで,人類学・民俗学の描く伝統的な人間像の変容を通時的に捉えるための知見を整えた。 成果は論文や口頭発表として逐一公表しており,特に,(1)高度消費社会化を背景とした宗教的規範・知識・経験の商品化を人類学・民俗学の観点から捉えるための理論的論考や,(2)巡礼ツーリズムを「経験消費」の一形態として捉え,精神的・身体的な経験が商業ベースのツーリズムで生成されることを描いた民族誌的論考をまとめた。更に,(3)商業ベースの宗教観光が人々の生活に浸透していくに従い,それらが地域社会に埋め込まれた従来の伝統的な宗教システムにとって代わり,人々への「意味供給源」となっていることを示した。 「セラピーツーリズム」参加者へのインタビュー調査から浮かび上がった仮説は,宗教類似商品を対象とする経験消費を成り立たせているものは,巡礼ツアーなり聖地観光なりのツーリズムに参加する人々の「不幸」である,ということだ。無論それは貧・病・争といった伝統的な「不幸」ではなく,生きる意味の欠如や生活への不全感といった主観的で現代的な「不幸」である。経験消費装置はこうした「不幸」を癒しつつ、他方ではそれを必要としている。次年度は,こうした逆説的な消費社会システムにおける自己/主体像の変容を考察することを目標としたい。
|
Research Products
(7 results)