2010 Fiscal Year Annual Research Report
相対論的粘性流体モデルの構築によるクォークグルーオンプラズマの研究
Project/Area Number |
10J07647
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
門内 晶彦 東京大学, 大学院・理学系研究科, 特別研究員(DC1)
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Keywords | 原子理論 / クォークグルーオンプラズマ / 相対論的流体力学 / 重イオン衝突反応 / ハドロン / 素粒子物性 / 非平衡統計物理 / 粘性流体 |
Research Abstract |
高エネルギー重イオン衝突反応においては、クォークグルーオンプラズマ(QGP)とよばれる強い相互作用をする素粒子の多体系が現れると考えられている。本研究ではQGPにおける素粒子物性の解析に向けて相対論的粘性流体モデルの構築を進めた。相対論的な散逸流体系を記述するにはエネルギー運動量保存則と荷電保存則に加えて、粘性散逸量に対する運動方程式を導入する必要がある。そのためまず相対論的散逸流体力学の枠組みを、QGPのように多成分かつ複数保存流が存在する系においてエントロピー生成から系統的に定式化する方法を提唱し、最も一般的なテンソル構造を持つ因果的な散逸流体方程式を導出することに成功した。この中で運動学に基づく手法においては、従来の導出法では生成消滅のある複数保存流系を扱えない事を指摘し、新たなモーメント方程式を導入してこれを解決した。また得られた方程式はオンサーガーの相反定理を自然に満たすことを示した。次にこの方程式を基に、バリオン数がない極限において、ずれ粘性と体積粘性を含めた時間1次元+空間1次元の粘性流体モデルを構築し、数値コードを作成してこれを評価した。衝突軸方向の時空発展の解析は数値的な困難を伴うためこれまでほとんどの場合流速に仮定がおかれてきたが、ここでは新たな解法を提唱しこの問題を解決した。これによって本年度の研究計画が予定通り遂行された。さらに、衝突前の原子核内のグルーオン飽和を記述するカラーグラス凝縮(CGC)描像を基に、相対論的重イオン衝突型加速器(RHIC)実験と大型ハドロン衝突型加速器(LHC)実験に対応する初期条件を構築して評価したところ、エントロピー生成と外向きのエントロピー流の効果によって非自明な粒子分布の変形が現れる事がわかった。これは最新のLHC実験結果において、中心ラピディティの粒子生成がCGCの予言より大きい事を説明しうる重要な結果である。
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