2011 Fiscal Year Annual Research Report
高エネルギー放射線によって発生する放射能の軽減と評価手法の確立
Project/Area Number |
10J08437
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
小川 達彦 東京大学, 大学院・工学系研究科, 特別研究員(DC2)
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Keywords | 高エネルギー放射線 / 二次粒子 / 放射化 / シミュレーションコード / 反応断面積 / 核破砕片 |
Research Abstract |
(1)高エネルギー放射線場におけるコンクリート遮蔽体で発生する放射能の測定とシミュレーション 中高エネルギーイオン(230MeV p,230MeV/u He,400MeV/u C,800MeV/u Si)に照射された鉄ターゲットが放出する二次粒子により、周辺のコンクリートにおいて発生する放射化について説明した。 投稿した論文を中心として、ターゲットの前方に配置されたコンクリート(遮蔽体)で発生する放射化を、熱中性子捕獲、核破砕の放射化検出器(Au,In,Mn,W,Al,Bi)で測定し、シミュレーション比較したことについて説明した。その結果、発生する放射能は、シミュレーションによって約2~3倍の範囲内で再現できること、乖離の原因はシミュレーションがターゲットから放出される中性子のスペクトルを正しく計算できないことにあると示した。 投稿した論文を中心として、ターゲットの側方に配置されたコンクリート(遮蔽体)で発生する放射化を、熱中性子捕獲、核破砕の放射化検出器で測定し、シミュレーションによる計算値と比較した旨を説明した。その結果、発生する放射能は、シミュレーションによって約3倍の範囲内で再現できることが判明し、その乖離に最も影響するのは、前方のコンクリート遮蔽と同じくシミュレーションがターゲットから放出される中性子のスペクトルを正しく計算できないことによるものであると示した。 (2)放射化反応断面積の測定1 昨年度まで実施していた内容、鉄ターゲットがイオンに照射された場合に発生する放射化の評価の中で、断面積のエネルギー依存性が課題となったことから、断面積をエネルギーの関数として測定する実験を考案した。測定のために、ターゲットの鉄と入射粒子の炭素を交換し、鉄イオン(500MeV/u)を炭素ターゲットに照射し、鉄イオンの飛程の後方に放出される鉄イオンの破砕片を計測するというアイディアである。その実験のシミュレーションを行ったところ、測定の精度は2~3倍のずれが見込まれ、目的とする精度に達しないことが判明した。 (3)放射化反応断面積の測定2 (2)における失敗の反省から、代わりの方法で断面積の測定を行うこととした。鉛のターゲットに炭素イオン(400MeV/u)を照射し、鉛ターゲット中に生成する核破砕片を計測する手法を考案した。これにより、鉛と炭素の衝突による核種生成断面積(Pb(C,x)X反応)23種類を50点弱のエネルギーにおいて得ることに成功し、計算コードの妥当性検証に使えるだけの精度が得られた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
計画では、研究業績の概要に記した(1)のみが研究対象であった。 (1)に関しては必要な内容をすべて完成させ、論文誌に成果を公開したことから、不足点がない。 さらに、(1)の内容を超えて(2)(3)においても実績を上げることができた点は、著しく進捗しているといえる。 この結果から、本研究は計画以上に進展したということができる。
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Strategy for Future Research Activity |
9.研究実績の概要に書いた(1)についてはほぼこれ以上に行うべき点は見当たらず、今後これまでにないような仕様の加速器の登場までは、本研究の結果を適用するのが妥当と考えられる。 一方、(2)(3)については、未知の核破砕片生成断面積はまだ多く、それのうち放射線安全上重要な意味を持っているものも少なくない(例C(C,x)B,Be,Liなど)。これらの測定を継続的に推進することが、近年盛んな重粒子線治療や宇宙開発における放射線安全に重要であると考えられる。
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