2011 Fiscal Year Annual Research Report
担子菌キノコの形態変化を制御するリン酸化シグナリングの解析
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10J08776
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Research Institution | Ehime University |
Principal Investigator |
金子 啓祐 愛媛大学, 連合農学研究科, 特別研究員(DC1)
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Keywords | 担子菌キノコ / プロテインキナーゼ / プロテインホスファターゼ / タンパク質リン酸化 |
Research Abstract |
Coprinopsis cinereaは担子菌キノコの分子生物学的・生化学的なモデル生物として用いられている。C.cinereaの生活環は、担子胞子から発芽した菌糸同士が核融合を伴わない細胞融合をすることで二核菌糸となり、二核菌糸体に光刺激が加わることで巨大な子実体が形成され、子実体の傘の裏で減数分裂が行われることにより担子胞子が形成されて一巡する。このようにC.cinereaはその一生で劇的な形態変化を遂げるが、その分子メカニズムは未だ不明な点が多い。そこで、真核生物の生命現象と深く関与するタンパク質リン酸化を介したシグナル伝達機構がC.cinereaの形態変化に関与すると推測し、解析を行った。 まずC.cinereaに発現するプロテインキナーゼ(PK)を取得するため、網羅的にPKを認識できるMulti-PK抗体を用いた発現クローニングを行った。その結果、複数の陽性クローンを取得し、そのうちの一つであるCoPK32について酵素学的諸性質や生理的な機能について調べた。CoPK32はC.cinereaの菌糸体、特に菌糸先端に多く発現していた。CoPK32のスプライスバリアントであるCoPK32Sも菌糸体で見出されたが、CoPK32と比べてPK活性は顕著に弱く発現量も少なかった。菌糸体に発現するCoPK32は浸透圧ストレスによって活性の上昇や発現量の増加がみられた。CoPK32のPK触媒領域以外の機能を調べるためC末端領域を欠損させた変異体を作製したところ、変異体のPK活性はwild typeと比べて高く、基質特異性が変化していた。以上のことから、CoPK32はC.cinereaの菌糸先端においてストレス刺激を伝達するPKであり、CoPK32のC末端領域は活性化や基質認識に重要な役割を果たしていることが推測された。 次に、担子菌の生活環と関わるプロテインボスファターゼを調べるため、C.cinereaの各成長ステージの抽出液に含まれるホスファターゼ活性をポリアクリルアミドゲル内で検出した。その結果、生活環の進行に伴い活性が顕著に増加するホスファターゼ活性が見出された。活性を指標に、クロマトグラフィーによる精製方法を検討している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
申請書に記載した研究目的である、担子菌キノコのストレス応答性プロテインキナーゼであるCoPK32の活性化機構について調べ、自己阻害領域について明らかにすることができた。一方で、CoPK32の内在性基質について解析を進めている途中であり、研究目的の完全な達成が果たせていないため。
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Strategy for Future Research Activity |
昨年度達成することができなかったCoPK32の内在性基質を同定するため、タンパク質粗精製を行い、質量分析による同定を試みる。同定した遺伝子をリコンビナントタンパク質として発現させ、リン酸化部位を特定し、リン酸化の意義について調べる予定である。また、担子菌の菌糸成長や子実体形成に関与するプロテインホスファターゼについて調べたところ、C.cinereaの生活環で活性をダイナミックに変動させるホスファターゼ分子を見出した。見出した分子が担子菌の生活環を制御している可能性は高いと考えられるため、本分子を同定し、機能解析を行う予定である。
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