2010 Fiscal Year Annual Research Report
俳句の情報学的分析――オートポイエーシス概念にもとづいて
Project/Area Number |
10J08876
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
大井 奈美 東京大学, 大学院・学際情報学府, 特別研究員(DC2)
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Keywords | 基礎情報学 / 俳句革新 / 俳句システム / ネオ・サイバネティクス / 階層的自律コミュニケーション・システム |
Research Abstract |
本年度の情報学的=システム論的文学研究の成果はおもに次の三つである。 第一に、ドイツやオランダなどで1970年代からおこなわれてきた、本研究と関連の深い文学システム研究を概観し、それを近年アメリカの文学者らによって提唱されている「ネオ・サイバネティクス」の観点から再評価したこと(『思想』1035号所収論文)。ここでネオ・サイバネティクスとは構成主義システム論の新しい呼称である。本論文執筆後、欧州における文学システム論に造詣の深い名執基樹教授(富山大学)を訪問し、意見交換することができた。 第二に、これらの研究成果について複数の国際、国内学会で発表したことである。日本、オランダ、韓国における学会参加をつうじて、文学システム論の代表的研究者であるS.J.Schmidt教授(ミュンスター大学)、N.Werber教授(ジーゲン大学)、朴麗星教授(済州大学)らと直接研究交流できたことは研究にとって非常に有益であった。なお今年度、S.J.Schmidt教授による、本研究と関連の深い構成主義をめぐる論文を翻訳した(『思想』前掲書所収)。 第三に、明治期に近代文学として革新された俳句の成立メカニズムを、ネオ・サイバネティクスの理論的枠組にもとづいて考察したことである。情報メディア学会に投稿した論文は、学会誌への採録が決定している。 以上三つの研究成果をつうじて俳句を対象にした文学システム論を推進してきた。とくに、俳句結社などの共同体やメディアとの深い相互関係のなかから、一種のオートポイエティック・システムとして近代俳句が生じてきたメカニズムについて分析した点は、俳句の固有性を考慮した文学システム研究をおこなうという目的に鑑みて重要な前進であったと考える。
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Research Products
(5 results)