2011 Fiscal Year Annual Research Report
俳句の情報学的分析―オートポイエーシス概念にもとづいて
Project/Area Number |
10J08876
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
大井 奈美 東京大学, 大学院・情報学環・学際情報学府, 特別研究員(DC2)
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Keywords | 基礎情報学 / 俳句 / オートポイエーシス / ネオ・サイバネティクス / セカンド・オーダー・サイバネティクス / 構成主義システム論 / 二次観察 / 経験的文学研究 |
Research Abstract |
本年度の研究成果としては以下の三点を挙げることができる。 第一に俳句研究にたいする成果について述べる。オートポイエーシス概念にもとづく情報学すなわち基礎情報学を応用して近現代俳句を分析することにより、既存の諸アプローチによる研究(たとえば文献学的研究、テクスト論的研究、認知科学的研究など)では十分にとらえきることが難しかった俳句独自の特徴について多角的にあきらかにした点を挙げることができる。その特徴とは、第一に俳句が俳句結社などの共同体やメディアと非常に密接な関係を結んでいる点、第二に共同体やメディアと作家とのあいだに師弟関係に代表される力関係が存在する点であった。こうした特徴にかんして、本研究の情報学的=構成主義システム論的アプローチによって、たとえば俳句結社における作句に、結社誌の存在や師弟関係がいかなる影響をおよぼすのかを説明することができた。 以上述べた俳句研究における成果にとどまらず、基礎情報学という理論的枠組を発展させた点も本研究の第二の成果として挙げられる。具体的には、通時的な考察の導入、自律システム同士の関係性、システムの作動メカニズムと情報概念との有機的関係づけなどをとおして理論を深化させることができた。 成果の第三として、既存の文学システム論研究が抱えていた問題点に一つの解決をあたえたことを挙げることができる。基礎情報学は二次観察概念を核とするセカンド・オーダー・サイバネティクス(ネオ・サイバネティクス)に含められる理論的枠組であるが、セカンド・オーダー・サイバネティクスを応用する文学研究は、すでにドイツを中心におこなわれてきた。それには、いわゆる経験的文学研究の潮流もふくまれていた。本研究をつうじて、文学システム論が有していた、文学テクストをめぐる理論を研究作業のなかに位置づけることが難しいなどの弱点を克服する道が拓かれ、情報学的=システム論的文学研究の可能性が拡張された。
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Research Products
(3 results)