2011 Fiscal Year Annual Research Report
アンドレ・ブルトンの芸術空間―神話発生のオートマティスムと記号の反転
Project/Area Number |
10J08901
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
前之園 望 東京大学, 大学院・総合文化研究科, 特別研究員(PD)
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Keywords | フランス文学 / 20世紀 / フランス現代詩 / アンドレ・ブルトン / シュルレアリスム / オートマティスム / 新しい神話 / 透明な巨人 |
Research Abstract |
本研究の目的は1947年のパリ・シュルレアリスム国際展の分析を通して、アンドレ・ブルトンの芸術空間の独自性を明らかにすることである。本研究の成果は三部構成の論文として発表される予定であり、本年度は第二部にあたる以下の主題を中心に研究を進めた。すなわち、造形的イメージが詩的言説の横濫を誘発する一方で、詩的言説は造形的イメージに含まれる潜在的機能を発動させるという、ブルトンの芸術空間の特性に着目し、各時期のブルトンの詩法がそこにどのように反映されているのかを分析した。具体的にはまず、ブルトン・コレクションのオークション・カタログや、ブルトンの造形作品の図版資料集などのコーパスの中から、ブルトンの言語活動がイメージに隣接しているモデルを選別し、時系列に沿って整理した。次に、言語とイメージの接近が、ブルトン自身の作品内のみでおきている場合、そしてブルトンの言語活動に他者の作品が関わる場合、の二種類に大別し、それぞれ発表媒体によって分類した。こうして、ブルトンの造形作品における、言語とイメージとの間の緊張関係の分析を行った結果、詩的テクストと立体的オブジェが組み合わせられた「ポエム=オブジェ」と呼ばれる一連の造形作品において、テクストとイメージそれぞれの領域が、時代を下るほどに作品空間内で複雑に錯綜し浸透しあう、という通時的変化が明らかになった。さらに、言語的要素と造形的要素が、どちらも他方の「説明」に陥ることなく機能する、つまりテクストがオブジェの解説文となったり、テクストの内容をオブジェが図示したりはしない、ブルトン独自の芸術空間を可能にする詩法の分析を行った。その結果、外部の可視的現実を不可視の想像界に取りこみ、詩的現実に昇華した上でそれを再び外部の現実空間へと重ね合わせるという、特殊な創作過程が明らかになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究指導委託によりフランスに海外渡航を行い、日本では閲覧の難しい、あるいは不可能な一次資料を多数入手できたこと、さらにシュルレアリスム研究の第一人者、ドミニック・カルラ氏と定期的に意見交換を行えたことが、研究を大いに発展、深化させたため。また、新しい発見をなしつつも、その研究の発展・深化が、おおむね期待された方向に向かっているため。
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Strategy for Future Research Activity |
研究計画に変更はなく、当初の予定通りの方針に従って研究を続行する。これまで行ってきた研究を下地に、本課題の中心的テーマである、1947年のパリ・シュルレアリスム国際展の分析を行う。その際に、ブルトンの言う「集合的神話」および「親しい神話」を「肥大化したオートマティスム」という観点から検討し、国際展で何が問題になっていたのかを明らかにする。第二次世界大戦の終戦直後に、ブルトンがどのような世界の出現を求め、シュルレアリスム運動になにを期待していたのかを論証し、戦後のシュルレアリスム運動の射程をはかる。
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