2010 Fiscal Year Annual Research Report
野生生物感染症の生態学:宿主繁殖生態を利用した病原ウイルスの伝播メカニズム
Project/Area Number |
10J09347
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
内井 喜美子 東京大学, 大学院・総合文化研究科, 特別研究員(PD)
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Keywords | コイヘルペスウイルス / 宿主間伝播 / 新與病原生物 / 野生生物感染症 |
Research Abstract |
本年度は、新興病原生物コイヘルペスウイルス(CyHV-3)が宿主であるコイ個体群に蔓延するメカニズムを解明することを主な目的として研究を行った。まず、CyHV-3が宿主間を伝播する経路を検証するため、琵琶湖のコイ個体群中および環境中に存在するCyHV-3量の時空間的な変動をリアルタイム定量PCRを用いて明らかにした。その結果、宿主個体群中のCyHV-3量が宿主の繁殖期に増大し、繁殖期後には減少すること、そして宿主繁殖活動時に繁殖場の水中CyHV-3濃度が一時的に増大することが実証された。これらのことより、繁殖場では、宿主密度が著しく高くなる宿主繁殖活動時に、感染宿主から放出されるCyHV-3により水中CyHV-3量が増大し、局所・局時的にCyHV-3の宿主間伝播のホットスポットとなることが強く示唆された。次に、宿主繁殖活動を介した伝播様式を示すCyHV-3において、その蔓延を引き起こす要因として、人為的な護岸工事や沿岸環境汚染による繁殖場の減少を考え、繁殖場の減少がウイルスの宿主間伝播速度に及ぼす影響を数理モデルを用い解析した。結果、急激な繁殖場の減少は、繁殖場における宿主密度の急激な増加を引き起こし、CyHV-3の宿主間伝播速度を増大させることにより、宿主個体群へのCyHV-3の蔓延を引き起こすことが示された。以上のように、本年度研究においては、野生宿主個体群におけるCyHV-3の伝播経路を明らかにするとともに、CyHV-3の蔓延を引き起こす要因の一端を明らかにすることができた。
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