Research Abstract |
本研究は,木質構造物の耐震安全性の向上を第一義的な目的とし,地震時における建物挙動を精度よく推定する上で重要となる接合部のモデル化に主眼をおき,その特性を導く上で必要不可欠となる材料力学的な基礎研究と共に,実構造物を想定したシミュレーション解析まで実施したものである。また一方で,2011年3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震による被害調査および復興支援のため,当初の研究計画の一部を見直し,東北地方・関東地方の構造物の被害状況を調べた他,液状化被害等に対するアウトリーチ活動にも時間を充てた。 基礎研究で得られた成果は,個別要素法の問題点である連続体への適用方法を検討し,理論値と調和的な結果が得られることを確認した上で,個別要素法の規範を基に木材をモデル化する一連の方法を導いたものである。機械的接合を持つ木質構造の接合部は,その不連続性から評価が困難であり,接触問題を考慮しなければならない他,局所的な破壊現象を取り扱う必要があり,本研究はその基礎を築いたものと位置づけられる。一方,構造物のシミュレーション解析では,研究代表者が数年に渡って取り組んできた木造住宅用の制振装置を対象に,動的な架構の応力解析モデルを構成部材の特性を積み重ねることでモデル化し,実務レベルで使用可能な成果としてまとめた。 研究の実施状況としては,基礎研究で得られた知見を学位論文としてまとめることで,その審査に耐え得る程度の成果が得られているが,当初の計画に照らし合わせれば,不十分な成果に留まっている。研究が計画よりも遅れた要因は,上記の地震による東日本大震災の影響が挙げられるが,建築を専門とする工学研究者の責務として,建物被害に対する調査活動等が非常時には重要と判断して,半年程度はその活動を優先させた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
9.研究実績の概要でも述べた通り,東北地方太平洋沖地震の発生により,それと関連する活動に研究の時間の一部を充てたため,当初の研究計画よりは遅れている。しかし,基礎研究として二カ年で実施してきた木材のモデル化に関する一連の方法は,その基礎を固める程度の成果としてまとめることが出来たため,今後の検討によって,精度の向上と方法論の確立が可能であると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでに遂行してきた研究では,解析手法の構築に主眼をおいてきたが,より実証的研究として,材料試験レベルの実験を様々な条件下で実施する計画である。特に木材の研究では,それ自体が天然材料であることから,試験片の採取等にも注意が必要であり,特に破壊性状に着目してシミュレーション解析による再現性を検討することが必要と考えている。
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