2010 Fiscal Year Annual Research Report
室町後期絵巻物の総合的研究―初期狩野派作品を中心に
Project/Area Number |
10J09542
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Research Institution | Gakushuin University |
Principal Investigator |
土谷 真紀 学習院大学, 人文科学研究科, 特別研究員(DC2)
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Keywords | 初期狩野派 / 室町絵巻 / 寺社縁起 / 狩野元信 / 洛中洛外図 |
Research Abstract |
本年度は、初期狩野派工房が手がけた絵巻物の調査並びに同時期に制作された絵巻作例の調査を精力的に行った。これらの調査により、室町後期から戦国期にかけて制作された絵巻作品群の様式的展開を把握し現地踏査を行うことによって、作品の主題となっている場所のイメージ化について検討した。特に、初期狩野派作とされる「鞍馬蓋寺縁起絵巻」は、数本ある模本を実見、作品の内容構成について検討した。その結果、初期狩野派の絵巻物のなかでも、前代からの絵巻作例の表現方法を継承しつつ、さらに既にあった掛幅本「鞍馬蓋寺縁起絵」との関係が第一巻にあるとの見解に達した。この内容は「『鞍馬蓋寺縁起絵巻』における縁起と景観」(佐野みどり・新川哲雄・藤原重雄編『中世絵画のマトリックス』青簡舎、2010年9月)として論文にまとめた。さらに、「二尊院縁起絵巻」の作品調査ならびに模本調査を行い、その分析内容について、米国・ハーバード大学にて「『二尊院縁起絵巻』における諸問題-基礎的検討と行列図像、洛中洛外図との関係を中心に」と題して発表した。「二尊院縁起絵巻」において特筆されることは騎乗する同朋衆の描写で、これまで室町絵巻で数例確認されてきた同朋衆の描写例としても、さらに武家の寺院参詣の行列描写を描く例としても重要であることを示した。さらに「二尊院縁起絵巻」には、下巻最終段に「米俵を運ぶ馬と人」が描かれ、このモチーフが、同時代に多数制作された洛中洛外を主題とした屏風、画帖、扇面類に見いだされるものと共通することが判明した。狩野派の絵巻とこれら洛中洛外図屏風や同主題を描いた扇面との関係は示唆されてきたが、具体的な人事モチーフによって確認できたことは大きな収穫である。
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Research Products
(2 results)