2011 Fiscal Year Annual Research Report
室町後期絵巻物の総合的研究―初期狩野派作品を中心に
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10J09542
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Research Institution | Gakushuin University |
Principal Investigator |
土谷 真紀 学習院大学, 文学部, 特別研究員(DC2)
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Keywords | 初期狩野派 / 狩野元信 / 室町絵巻 / 酒飯論絵巻 / 物語絵画 |
Research Abstract |
本年度は、初期狩野派による絵巻作例に加え大画面作例などの作品調査を行い、初期狩野派による絵巻作品群の分類、様式検討を更に進めた。上述の調査成果や考察内容は、「初期狩野派絵巻の総合的研究」と題した博士論文へ反映し、2011年9月に提出した。 初期狩野派による絵巻作品群を制作年代とその主題により、「初期作例」「新主題」「既存主題」に分類し検討を行った。「初期作例」の作例(「鞍馬蓋寺縁起絵巻」「釈迦堂縁起絵巻」)では、巻末に描く寺域空間の描出が洛中洛外を主題とした作品へとつながることを明らかにした。さらに、「釈迦堂縁起絵巻」の第三・四巻における異国風俗描写には、狩野派による中国主題の翻案方法が土台としてあることを明らかにした。 「新主題」の絵巻では、「二尊院縁起絵巻」、「程嬰杵臼豫譲絵巻」について検討した。「二尊院縁起絵巻」には専論がない為、基礎的事項の検討に努め、元信の弟子あたりの世代による作品と位置付けた。 「既存主題」を描いた絵巻作例では、特に「九相詩絵巻」や「北野天神縁起絵巻」など頻繁に絵画された作品に注目した。これらには、土佐派作例と狩野派絵巻との間で図様が共有されており、狩野派による土佐派図様の摂取や、次世代の狩野派絵師による「源氏絵」制作など、人気の確立した物語を絵画化するにあたっての図様選択の問題へとつながる。 さらに、初期狩野派による絵巻群の中でも近世絵画につながる重要な作例「酒飯論絵巻」(文化庁本)を分析した。調査にて得た知見は、フランス国立図書館他共催のシンポジウム「雄弁な文・対話する絵-日本中世における文学ジャンルと視覚表象シンポジウム」において、「狩野派絵巻における『酒飯論絵巻』の位相」と題して発表を行った。発表では、文化庁本が元信あるいはその工房の手になる原本ではなく模本であり、元信次世代の絵師・狩野永徳や狩野秀頼らの画風に通じることを指摘した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
作品調査による実見を踏まえた分析を進めることができており、その成果を公表ならびに公刊することもできている。
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Strategy for Future Research Activity |
未調査の作品については、迅速に調査の手続きを進めていきたい。また、既発表の研究内容についても、発表後に隣接分野の研究者によって進展の進んだものがあるので、それを踏まえた考察を発表ならびに公表していきたい。
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Research Products
(1 results)