2012 Fiscal Year Annual Research Report
室町後期絵巻物の総合的研究-初期狩野派作品を中心に
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10J09542
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Research Institution | Gakushuin University |
Principal Investigator |
土谷 真紀 学習院大学, 人文科学研究科, 特別研究員(PD)
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Keywords | 初期狩野派 / 狩野元信 / 室町絵巻 / 酒飯論絵巻 / 源氏絵 / 涅槃図 / 寺社縁起 / 土佐派 |
Research Abstract |
本年度は、初期狩野派の絵巻物に加え、狩野派の図像摂取の様相をたどるべく、土佐派の涅槃図について調査・分析・発表を行った。 特に、「釈迦堂縁起絵巻」第二巻第七段に描かれる涅槃場面に注目し、その図像典拠となっている土佐派系の涅槃図(山口県・周防国分寺本、滋賀県・興善寺本、米国・個人蔵本)を調査し、考察内容を「土佐派による仏涅槃図について」と題して発表した。調査の過程において土佐派の手になると判断された作例もあり、今後さらに関連作例が見出される可能性がある。一連の土佐派系仏涅槃図作例の分析は、狩野派の仏画制作における、先行図像の受容問題を検討していく上で極めて有益なものとなった。 本研究の主軸である狩野派絵巻の分析と発表は次の通り行った。「二尊院縁起絵巻」については、「『二尊院縁起絵巻』について一作品紹介とその特質」と題する発表を行い、画風の検証結果を報告するとともに、二尊院の寺史を軸として縁起が構成されていることを指摘した。「酒飯論絵巻」については、文化庁本とやまと絵系絵師の手になる静嘉堂文庫美術館本「酒飯論絵巻」との比較を行い、文化庁本では総じて絵画としての有機的構造が企図されていることを「狩野派における『酒飯論絵巻』の位置」と題した発表において報告した。狩野派絵巻の中で最も重要な作例である「釈迦堂縁起絵巻」については、画面の大部分を占める異国表現について「『釈迦堂縁起絵巻』における中国美術の援用と中国イメージ」と題して発表した。これらの発表については、現在公刊が決定しているものを含め、論文化を進めている所である。 さらに、狩野派における物語表現の分析を進めるべく、毛利博物館蔵「源氏物語絵巻」(全五巻)を調査し、現在分析中である。本作例は狩野派における「源氏絵」の意義を明らかにするだけではなく、室町後期から江戸初期にかけての「源氏絵」の展開を考える上でも重要な作例である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の進展で重要な位置を占める作例だけではなく、まだ専論の発表されていない作品についても実見と分析を進め、さらに研究発表を行っていることから、研究の目的で掲げた「狩野派における物語主題の絵画化」をめぐる検証を進めることが出来ていると判断されるため。
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Strategy for Future Research Activity |
4件の発表内容については、論文化か決定しているものも含め、迅速に公判の準備を進めていく。また、所蔵者ならびに作品状態の都合により、実見の叶わなかったものについては、今後も引き続き交渉を行い、調査へとつなげていく。
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Research Products
(4 results)