2010 Fiscal Year Annual Research Report
原爆に関する言説と表象をめぐる歴史研究―1920年代から40年代の日本を中心に―
Project/Area Number |
10J09766
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
中尾 麻伊香 東京大学, 大学院・総合文化研究科, 特別研究員(DC2)
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Keywords | 原爆 / 原子力 / 科学者 / 科学技術観 / サイエンスフィクション / 海野十三 / ポピュラーサイエンス / 錬金術 |
Research Abstract |
本年度は以下のように研究を進めた。(1)まず、戦前から原爆や原子力に相当するものを幾度も描いていたSF作家の海野十三に関する調査を進めた。海野十三の作品における兵器の描写を検討し、兵器が敵国によって作られること、それが海野の科学技術をめぐる視点から来ることを指摘した上で、そうした中で日本を勝利に導くために精神力が強調されていくさまを分析した。戦時中に科学力と精神力が結びつけられていく過程を分析し、原爆という兵器が望まれていく過程を検討する上での一つの重要な証左を得た。この内容をSociety for Social Studies of Science(4S)の年会で発表した。また、投稿論文の形にまとめ、STSの国際ジャーナルに投稿した。(2)次に、戦前から戦後への科学技術観の変容と連続性に関する議論をするために、戦後日本のポピュラーカルチャーにおける科学技術の描写を検討した。まず、鉄腕アトムをはじめとするマンガ・アニメにおけるロバットの描写から、科学技術と主体性の問題を検討し、日本とドイツのロボティクスをめぐる文化的・技術的問題をテーマに開催された国際ワークショップで報告した。また、00年代に人気を博したマンガ・アニメ「鋼の錬金術師」を題材に、作品における錬金術師が今日でいう科学者の役割を担っていることを指摘した上で、錬金術と科学に通じて問題を、20世紀の原子核物理学の進展を背景に、変容と破壊をめぐる想像力という観点から議論し、「ユリイカ」に寄稿した。(3)さらに、戦時中から原爆に関して発言していた科学者・文学者たちが、原爆投下直後に原爆をどうのように受け止めたのかを、日記や刊行物から分析し、戦時中のポジティブな原爆観が戦後に引き継がれたことを指摘した。この内容についてヨーロッパの科学史学会のシンポジウムで報告した。
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