2010 Fiscal Year Annual Research Report
障害者問題の比較社会学―日米英障害者運動における労働・教育・自立生活と社会的統合
Project/Area Number |
10J09785
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
榊原 賢二郎 東京大学, 大学院・総合文化研究科, 特別研究員(DC1)
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Keywords | 障害 / 包摂 / 排除 / 潜在能力カアプローチ / 多文化主義 / 共生 / 障害文化 |
Research Abstract |
昨年度の論文および発表は、個人の能力や存在に対する評価を出発点としない社会的統合の必要性を述べたものであり、社会的統合・包摂(インクルージョン)を障害の文脈で位置づけ直すという本研究の目的を前進させるのである。また、社会的統合・包摂を障害者の教育・労働・自立生活について考察する際の基礎を成す研究である。 論文では、近年提起されたいくつかの障害観および関連の議論を検討した。障害者も通常上の生活条件を享受すべきだとするノーマイゼーション系の議論と、ろう者は耳の聞こえない者ではなく、手話という言語を使うマイノリティだとするろう文化の議論、およびそれらの立場の背景として捉えられるセンの潜在能力アプローチおよびテイラーらの多文化主義を取り上げた。これらの議論はいずれも、「障害者も価値あることを達成しうる」「価値ある生を送ることができる」といった前提をおいている。しかし能力や存在の幅の個人間・文化間比較が問題となるとき、重度障害者のみならず経度障害者も考慮の対象から排除されうることを述べた。 これを承けて、発表では、重点を個人の能力と存在から社会的統合・包摂へと移すことを試みた。差別の中心的要素は身体的差異やそれへの評価ではなく排除であるという江原由美子氏の議論を援用し、排除を問題にする視座を提示した。こうした排除状況の乗り越えのために共生概念が提起されたことを述べた。それは、日本においては養護学校の義務化に反対する運動などで提示され、障害者に対する健常者の意識変革を伴うようなある種の社会的包摂を示すものだった。しかし他方で、こうした共生への反対も存在する。たとえば、ろう文化の立場からは、共生は言語としての手話に否定的な影響を与えると主張される。今後の研究ではこうした障害文化などの立場を考慮しつつ包摂概念を再検討することとしたい。
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