2011 Fiscal Year Annual Research Report
障害者問題の比較社会学―日米英障害者運動における労働・教育・自立生活と社会的統合
Project/Area Number |
10J09785
|
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
榊原 賢二郎 東京大学, 大学院・総合文化研究科, 特別研究員(DC1)
|
Keywords | 社会的包摂 / 社会的排除 / 差別 / 構築主義 / 障害 / 社会モデル / インクルーシブ教育 / 身体 |
Research Abstract |
「13.研究発表」中の論文および発表を通じて、社会的包摂と身体の関係を考察した。仮に身体的条件によって処遇が異なる状況が排除に当たるとすれば、包摂とは身体的条件によらず等しく処遇することだろうか。 論文では、身体を顧慮しない処遇が、却って身体的条件を浮上させうると指摘した。例えば障害児教育で、児童生徒の障害に応じた介助や学習補助がなければ、障害の有無が学習条件に強く影響することになる。この状況は投棄(ダンピング)と呼ばれ、包摂とは異なる。こうした身体を顧慮した処遇と顧慮しない処遇の逆説的関係を引き受け適切に展開することが、社会的包摂には必要であると論じた。 この点で本研究は、障害に関する構築主義的立場(「障害の社会モデル」)とはやや異なる。この立場は、障害者が被る不利益は、身体的欠損とは関係なく、社会によって生成され、社会的に解消されるべきだと主張する。しかし身体的条件は関係ないとすると、介助などの支援の必要性は主張しにくくなる。支援の必要性をいうためにも、身体への顧慮を含んだ「投棄なき包摂」の模索が必要であることを論じた。 学会発表では、この問題関心を障害児教育に即して展開した。この領域での包摂は、場の統合、即ち健常児と障害児が共に学ぶことと、支援の提供、即ち障害児に必要な介助や学習補助の提供から成る。従来の学級制度は、普通学級内での障害児の存在を想定せず、障害児への支援は分離された特殊学校・学級で行われた。一方最近開始された特別支援教育支援員制度は、普通学級内で介助や学習補助を提供する制度である。この制度は、普通学級内における障害児の存在を想定し、障害という身体的条件の差異を織り込むことで、かえって身体的条件に関わらず共に学ぶ可能性を広げる。こうして投棄なき包摂には、単純な身体の顧慮・不顧慮のみではなく、身体の顧慮による不顧慮といった逆説的な戦略も必要になると論じた。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究の目的は、障害者の社会的統合について、障害児教育・障害者就労・自立生活といった具体的領域に即して論じるというものであった。本年度の研究では、社会的包摂における身体への顧慮と不顧慮の展開という研究全体の軸を定めることができ、また具体的領域として障害児教育の考察に着手できた。そのため研究は順調に進展していると考えられる。
|
Strategy for Future Research Activity |
社会的包摂と身体への顧慮/不顧慮との関係という研究関心を、文献に基づき、障害者就労および自立生活に即して展開する。 社会的包摂の最大の焦点は労働にあり、ワークフェアとベーシックインカムという二つの方向性が提起されている。しかし障害者のワークフェア、ベーシックインカムには、それぞれ身体的条件による困難が存在する。ワークフェアには職務遂行可能性の問題が、ベーシックインカムには障害による追加的費用の問題が存在する。これらの問題を検討する。
|