2011 Fiscal Year Annual Research Report
化学的物質設計とダイナミクス測定による高機能層状酸化物超伝導材料の開発
Project/Area Number |
10J09997
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
石井 悠衣 東京大学, 大学院・総合文化研究科, 特別研究員(PD)
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Keywords | カゴメ格子 / 金属間化合物 |
Research Abstract |
本研究ではこれまで新機能性層状化合物の開拓を目的として研究を進めてきた。本年度では、特にカゴメ格子を持つ物質に注目し、物質開発を行った。カゴメ格子に関するこれまでの物性研究の多くは、カゴメ格子上に局在したスピンが示す幾何学的フラストレーションに着目した、反強磁性絶縁体についての研究が中心であった。このためカゴメ格子を持ち、かつ金属的な物質についての物性研究はほとんど行われてきていない。一方で、カゴメ格子上の電子系は分散を持たない平坦バンドを持つことが理論的に示されているが、実際に平坦バンドとフェルミエネルギーの一致により特異な現象が現れたという例は報告されていない。これは恐らく、平坦バンドがフェルミエネルギーよりはるかに低エネルギー側に位置しているためである。何らかの理由によってこれらのエネルギーレベルを一致させることができれば、これまで知られていない新奇な現象が期待される。そこで本年度では、新奇機能性層状化合物の開拓を目的とし、Crがカゴメ格子を形成するYCr_6Ge_6に注目した。バンド計算結果によると、この物質では、フェルミエネルギーよりわずかに低い位置において、Γ点からM, K点にかけての一部に平坦なバンド構造が現れることが示唆された。平坦バンドがフェルミ面に一致する化合物の例を示したのは本研究が初めてである。現在、本物質でフェルミエネルギーの位置に平坦バンドが現れた機構を解明するとともに、キャリア量制御を行ったYCr_6Ge_<6-x>Ga_x単結晶および多結晶を作製し、詳細な物性を解明中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度において詳細な物性評価に耐えうる高品質Y123薄膜の作製手法を確立し、次年度においては新規機能性層状化合物の開拓を目指して、平坦バンドがもたらす新奇物性探索に新たに着手した。平坦バンドに由来する新奇物性を開拓しようとした試みは本研究以外にはほとんどなく、本研究は今後の物性分野の発展に大きく貢献するものと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
バンド構造計算手法も取り入れて新物質探索を推進する。計算結果を踏まえてフェルミエネルギーと平坦バンドが一致するメカニズムの解明を試み、それに基づき新機能性層状化合物の探索を進める。
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