2010 Fiscal Year Annual Research Report
「再始動」後のヨーロッパ統合―1980年代半ば以降の雇用政策を巡る展開を中心に
Project/Area Number |
10J10053
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
小野田 拓也 東京大学, 社会科学研究所, 特別研究員DC1
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Keywords | EC / EU / ヨーロッパ統合 / ガヴァナンス / 構造基金 / ESF / 雇用政策 / 社会政策 |
Research Abstract |
本年度の主たる課題は、1980年代後半に成立した社会政策と構造政策の境界画定の歴史的経緯を分析することであった。この課題についての基本的な検討は前年度に完了したものの、成果の取りまとめにあたっては、共同体の内部文書等を交えた議論の補強が必要であった。そこで夏にブリュッセル、フィレンツェのEU関連文書館において資料調査を実施し、委員会高官の私文書のほか、理事会議事録、委員会告示草稿、会合記録などの文書を取得した。この調査の成果をふまえ、失業問題をめぐる委員会の主要な政策手段の一つである欧州社会基金(ESF)がなぜ「構造基金」に含まれることになったのか、その運用をめぐる政治の歴史的展開を論文「ECにおける政策領域の構造形成」にまとめた。ESFを経済構造再編に伴う雇用問題に対処する手段とし、超国家的産業政策と連動させようとする委員会の構想が挫折する過程を分析したことで、垂直的な複層性と水平的な割拠性を特徴とする制度構造をもつECにおいて超国家アクターが政策手段の運用時に直面する障害を示し、統合理論のいわば死角であった、運用局面が果たす役割に光を当てることができた。同時に、80年代初頭における委員会主導の包括的制度改革の試みが、既存の政策領域の構造を固定化し、この構造が80年代後半における政府間交渉に受け継がれた点など、1980年代におけるEC統合の「再始動」をめぐる議論に対し一定の含意を得た。この論文は『国家学会雑誌』124巻3・4号に掲載される。またこの間、書評論文執筆の機会を通じて、EUの民主的正統性をめぐるSimon HixとPaul Magnetteの所論を検討し、共同体諸機関を結び付け規定するマクロな制度構造に目を向ける意義など、EUという政体の形成を比較歴史的観点のもと位置付けようとする本研究の基礎に関して重要な示唆を得ることができた。
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Research Products
(2 results)