Research Abstract |
テストと学習行動の関わりについて,「テストの実施目的・役割に対する学習者の認識」であるテスト観に着目して研究を行った。まず,テスト観と学習方略との関連について評価する上で,テストへの動機づけの一側面として考えられる,テストを受けることに対して接近するか回避するかという2つの動機を媒介要因としたモデル構成を試みた。その結果,「テストは学習の改善に活用するためのものであり,また学習のペースメーカーとなる」というテスト観を有する学習者ほど,テスト接近傾向の高さを媒介して,適応的な学習方略を用いることが示唆された。一方,「テストは学習を強制させるものだ」と認識している学習者は,テスト接近-回避傾向を介さず,学習方略に対して直接的に影響を与えていることが示唆された。さらに,上記の因子間の関係が,有能感の高低によって影響を受ける可能性を検討するために,有能感を調整変数とした,多母集団同時解析を行った。その結果,変数間の関連については群間で大きな違いはみられなかった。従って,有能感の高低にかかわらず,適切なテスト観を形成することで,効果的な学習行動が促進される可能性が示唆された。適切なテスト観を形成することの効果については,中学2年生を対象とした数学の実験授業で検討した。そこでは,評価基準と自己改善の指針が明確になるように,ルーブリックを学習者に提示した。その結果,ルーブリックを提示された群は,ルーブリックが提示されずに答案に対して具体的なコメントが与えられた添削群と比較して,「改善」テスト観(自身の理解状態を把握し学習改善に活用するためのものであるという認識)が高く,内発的動機づけや適応的な学習方略,テスト成績が促進されることが示された。以上のように,テストと学習行動の関連を明らかにするだけでなく,教育実践への示唆を提供したことから,本研究には学術的にも実践的にも意義があるといえる。
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