Research Abstract |
ドップラーレーダー解析研究では,標高1000mを越える山頂に設置されたタイ王立人工降雨農業航空局(BRRAA)オムコイレーダーを中心に,1998-2000年のモンスーン雨期のレーダーエコー強度を解析し,その特徴を調査した。そのために,まず,レーダー読み取りプログラムを開発することから始め,解読したデータを,昨年度開発した内挿方式を使って全てのデータを直交直線座標へと内挿した。この直交座標に内挿されたデータを用いて解析を行った結果,オムコイレーダー観測範囲においてもチェンマイと同様,下層のエコー全面積はどの年も南西モンスーン期間を通じて顕著な日変化を示し,位相の変化もほぼチェンマイと同じであることがわかった。次に,エコー移動方向の解析を行ったところ,5-7月はほぼすべての日の大多数のエコーが近辺の対流圏下層と同じ風向の南(8160)16南西風と同じ向きに動いていること,8-9月は卓越した移動方向は認められないこと,10月前半はエコー移動方向も卓越風向も逆転していることが明らかとなった。さらに,レーダー観測範囲の南半分を山岳地形にほぼ平行な11本の帯に分割し,それぞれの帯領域内のエコー面積の日変化を調べた。その結果,5-7月の南西モンスーン期においては,Dawna山脈風上側のベンガル湾およびミャンマー海岸地域では朝に,山岳地域では午後に最大となる日変化をしていた。しかし,風下側にあたるタイ北部では,山岳からの距離が離れるとともにエコー面積増大の開始時刻や最大時刻が遅れることを明瞭に示すことができた。これは,スコールラインの東への移動が日変化の主要な原因であるという数値実験(Satomura2000)の予測と一致する現象が実際にも起こっていることを,レーダー観測から示したものである。さらに,10月の北東モンスーン期では風が逆転しているためDawna山脈のミャンマー側が風下となるが,このときにも風下側の地域で同様な位相の遅れを認めることができた。このように,昨年度の数値実験で示唆されたシステム移動による日変化機構が,数値実験の設定時期であるモンスーン前期だけではなく,風の逆転した終息期にも働いていることを示すことができた。 気象衛星赤外データと雨量計網を用いた解析研究では,バングラディシュからインドシナ半島全体に及ぶ広い範囲での降水日変化の様子を,詳細に調べた。その結果,降水日変化には海陸の差だけでなく,たとえば同じインドシナ半島内でも夕方から夜の早いうちに最大となる平原部や,深夜から夜明け前に最大になる一部山岳域など変化に富んでいることが明らかになった。 また,3次元領域気候モデルによるインドシナ半島の長期間シミュレーションによって,タイ東北部の森林伐採がインドシナ半島の降水に与える影響を評価した。その結果,森林伐採を行った地域での平均降水量の減少は9月に発生すること,地域平均月降水減少量は88mmであることがわかった。これらデータ解析と数値実験の結果から,南西モンスーンが強い8月には十分な水蒸気が供給されるために森林伐採の影響は少なく,季節風の弱まる9月に局地的な森林伐採の影響が降水量減少となって現れると結論できた。 これらの結果は,国内及び国際研究集会で発表した。
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