2001 Fiscal Year Annual Research Report
『短論文』の歴史的、文献学的、哲学的研究を中心とするスピノザ哲学の形成過程の研究
Project/Area Number |
11610006
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Research Institution | University of Yamanashi |
Principal Investigator |
佐藤 一郎 山梨大学, 教育人間科学部, 助教授 (80178706)
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Keywords | スピノザ / 『短論文』 / 原典写本 / 真理 / 神の存在のアポステリオリな証明 |
Research Abstract |
4年計画の3年目になる今年度は、課題の中心であるスピノザの『神、人間とそのさいわいについての短論文』(以下『短論文』と略)をめぐって、次のような研究を行なった。 1.オランダのハーグ王立図書館所蔵の『短論文』の二つの写本(原典写本AとそれにもとづくB)のマイクロフィルムを入手し、両者を比較しながら解読した。それにより、刊行テクストと諸国語訳による研究の過程で生じた疑問点の解明にもつとめた。従来つけられてきた文献学的・哲学解釈上の注解注釈を検討・整理する基礎的研究を継続した。 2.未完作品『知性改善論』(『短論文』に先立つ可能性が濃厚)、『エチカ』(『短論文』の完成形態)との比較研究を次の点から行なった。真理の問題を中心に据えて、(1)『知性改善論』中断の理由とみられる真理探求の方法の問題点を探った。(2)『短論文』ではその克服がはかられたこととなおそこに限界があったことを洞察し、(3)『エチカ』の新理論との比較検討をした。三つの作品の継承的展開を解明するために、『短論文』における神の存在のアポステリオリな証明が重要であるという着眼を得た。 3.外国旅費によりイタリアのマチェラータ大学に出張し、『短論文』の最高権威であるフィリッポ・ミニーニ教授から、これまでの研究と上記2に関して指導を受けながら討議を重ねた。それにより疑問点を解決し、新しい知見も得られた。さらに同教授が準備中の『知性改善論』の新しいテクストの原稿コピーを入手し、それにもとづく同作品の基礎的研究に着手した。 4.今年度末に行なわれる日仏哲学会春季シンポジウム(テーマ「合理主義と真理」)において、提題者の一人として「スピノザと真理」という題で、上記2の研究成果を中心に発表を行なう。
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