1999 Fiscal Year Annual Research Report
日本における「芸術家」イメージの形成史-絵画制作者はどのように語られてきたか-
Project/Area Number |
11610055
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Research Institution | Doshisha University |
Principal Investigator |
岸 文和 同志社大学, 文学部, 教授 (30177810)
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Keywords | 芸術家 / 絵師 / 画僧 / トポス / メディア / 画人伝 |
Research Abstract |
日本において、「芸術家」という用語と「芸術家」のイメージが、(1)いつ、(2)どのような過程を経て、(3)どのような性格をもつものとして一般的に流通するようになり、(4)なぜ流通しなければならなかったかを、「美術」に関するさまざまな言説--伝説・説話・伝記・評論--を分析することによって明らかにすることが本研究の目的である。 平成11年度は、「芸術家」という近代に固有の絵画制作者イメージの特徴を際だたせるために、多様な文献(説話集/画人伝/人名録/美術史)に記された絵画制作者のうち、古代と中世(近世)に属する制作者--「絵所絵師」「画僧」「御用絵師」--のイメージに的を絞り、彼らについて語る《トポス》--反復して使用される《語句(決まり文句)》や《逸話(物語)》--を分析した。その結果、次のことが判明した。 1.絵画制作者のイメージは、それを語る人の立場に依存する。特に画人が画人について語る場合、画人は、画人自身が理想として思い描く美術史--画人の社会的役割を保証し、その地位の上昇を約束する物語--を構成する英雄として語られる。 2.古代を代表する宮廷画人としての百済河成は、《霊媒(メディア)》として語られ、以後のあらゆる画人イメージの粗型となった。 3.中世漢画を大成した画僧としての雪舟は、さまざまな障害--とりわけ絵師の社会的地位に関わる障害--を自らの力で乗り越えてゆく《英雄》として語られる。 4.中世末に登場に、近世御用絵師の一大勢力を確立した狩野元信は、一方で、画事に没頭するあまり世俗的・世間的な常識を無視してしまう《逸脱者》として、他方で、一種の《求道者》--あるいは《霊媒》との関係で言えば《憑依者》--という社会的に容認された存在として位置づけられる。
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Research Products
(2 results)