2000 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
11610150
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Research Institution | Nara University |
Principal Investigator |
遠藤 由美 奈良大学, 社会学部, 教授 (80213601)
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Keywords | 対人関係的文脈 / 自己評価 / 自伝的記憶 / 成功体験 / 失敗体験 |
Research Abstract |
さまざまな対人関係的文脈が自己評価にどのような影響を及ぼすのかを明らかにし、より具体的には、親密な関係が、自己評価の極端な低下を防御する効果するという仮説を検証することを本年度の目的とした。それを検討するための方法として、今年度は当初の予定を少し修正し、自伝的記憶に表れる実際の体験の中の他者がどのような機能をはたしているのかを明かにすることにした。まず各自の成功体験・失敗体験を各1つ選択し、それについて1000〜1500字前後で事の始まりから終わりまでを自由に記述してもらった。次に、集まった自由記述全体に研究者が目を通し、評定枠組みを作成した。枠組みないし評定の観点は、経験における他者の位置づけ、課題志向性、原因帰属、経験した感情、自尊感情などに関するものであり、成功体験に42項目、失敗体験については46項目が作成された。次に、これらの枠組みを用いて、別の判定者に、個々の記述を評定してもらった。なお、参考として、米国の大学生にも同様の手続きの調査を実施し、比較対象とした。 本研究の結果から見出されたことを簡潔に述べる。成功体験:米国では、成功は他者に開示され、他者に対しても影響、とくに肯定的な影響があるものと考えられているのに対して、日本のデータからは、そのような他者との「喜びの共有」みたいな傾向は認められなった。すなわち、成功が他者に伝えられ、その他者からの肯定的フィードバックによって、自尊感情が影響されるとはいえなかった。失敗体験:成功体験では、さまざまな観点において文化的な違いが認められているのに大して、失敗体験ではそれは著しく少ない。すなわち、失敗体験においては重要な他者が登場し、自尊感情維持を促進するような機能を果たすものと考えられたが、今回の自由記述にはそのような傾向はほとんど認められなかった。むしろ、失敗は他者にはあまり語られず、自己の中にとどめ置かれる傾向が見られた。それと同時に、失敗時に経験する感情は長期化する傾向が見られた。その2つの現象の間の因果関係は直接には検討できないが、本研究の仮説をまさに逆方向から検証しているという考えも成立する。次年度に詳細に検討したい。
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