2000 Fiscal Year Annual Research Report
第三帝国期におけるドイツ・ユダヤ人のアイデンティティに関する研究
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11610398
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Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
長田 浩章 広島大学, 総合科学部, 助教授 (40228028)
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Keywords | 第三帝国 / ドイツ・ユダヤ人 / アイデンティティ / ゴルトマン,エルヴィン / クレンペラー,ヴィクトール / 「非アーリア人」キリスト教徒 / ユダヤ人「混血」 / パウロ同盟 |
Research Abstract |
本年度は、初年度において新たに発生した疑問点を中心に研究・調査を実施した。つまり、第三帝国下新たに「ユダヤ人」として取り扱われたユダヤ系キリスト教徒らの動向である。これは、ナチ政権が、「ユダヤ人」を「人種」として規定しようとすることから生じたのである。たとえ自身がキリスト教徒であっても、祖父母の代に3人以上ユダヤ教徒がいれば、彼らは「ユダヤ人」として扱われ、2人以下の場合には、「混血」とされた(1935年のニュルンベルク法以降)。彼らの実数は、33年時点でドイツ・ユダヤ人の7割以上の規模を有していたと推察される。彼ら「非アーリア人」キリスト教徒の動向に関しては、ドイツ本国においても研究が始まったばかりである。彼らが政権から認可を受けて結成した自衛組織=「パウロ同盟」は、体制の側から何度も名称変更を余儀なくされ、39年8月には解散させられた。1999年に出版された研究者Vuleticによる当組織の研究書を中心に、この組織に参加した人々や、意識的にそれを避けた人々のアイデンティティを分析した。後者の代表的人物は、『私は証言する』という邦題で日記の翻訳が99に出版されたV.クレンペラーである。また、前者における悲劇的な事例として、私はエルヴィン・ゴルトマンを取り上げた。彼は、1919年になってプロテスタントに改宗した元ユダヤ教徒であったため、ナチ政権下では「ユダヤ人」とされた。キリスト教徒の妻子を持っていたため、彼は東方に移送される(=殺害を意味する)順番を後回しにされることで、辛くも生き延びた。ドイツ愛国者であった彼は、政権に認めてもらうため、41年から43年までゲシュタポ等の密告者として活動することになった。彼に関する史料は、ベルリン工科大学反ユダヤ主義研究センターを訪問した際、ベルクマン教授の取り計らいで閲覧・収集できた。成果は、「『ユダヤ人』とされた人々」と題して、山代宏道編『危機をめぐる歴史学(仮題)』(2001年出版予定)に掲載予定である。
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