2000 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
11610453
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
竹本 幹夫 早稲田大学, 文学部, 教授 (90138181)
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Keywords | 宮増 / 信光 / 長俊 / 能作法 / 伊勢猿楽 / 大和猿楽 / 番外曲 / 世阿弥 |
Research Abstract |
本研究を通じ、以下のことが明らかになった。 まず第一は、従来室町後期の能作者とされ、謎の作者と考えられていた宮増大夫の作風についてである。宮増大夫は世阿弥晩年期に伊勢において勧進能を催している事実がすでに確認されているが、実は宮増大夫の居住地は伊勢国下楠で、そこは伊勢と大和を結ぶ交通路の中間に位置すること、宮増大夫は伊勢猿楽の出身で、伊勢・大和両国で活躍していた可能性が極めて強いこと、宮増大夫の子孫がポスト世阿弥時代の観世座において活動している事実があり、宮増大夫座は室町中期から後期の間に一時的に座勢が拡大したが、やがて衰退に向かったらしいこと、いわゆる宮増作の能とされているものについては、室町中期の非大和猿楽系の作風を代表している可能性があること、などである。 次に観世信光・長俊父子の作風についてである。信光・長俊の作品は、多くは廃曲化しており、その原因を文芸性のなさに帰することが一般であった。しかしながら信光・長俊時代には、面白い伴奏音楽の発明や、詞章による説明の伴わない身体演技などによって、直情的に観客に訴えかける演出が確立した時代と評価すべきなのである。本来世阿弥や禅竹の作風の影響下にあるはずの彼らの作風が、このように変貌したのは、世阿弥時代以前の古風を再興した結果と考えるよりは、宮増大夫のような他系統の演目が、観世座に流入した結果である可能性が強い。 こうした認識を持つに至ったのは、番外曲を豊富に含む謡本を大量に収集し、データベース化したためである。作業効率の問題から、データベース化の対象となったのは、大半が法政大学能楽研究所の所蔵謡本であり、それはすでにマイクロフィルム化されていたために、容易にCDへの焼き付けが出来、索引を作成し易かったことによる。今後はこの謡本収集をより大規模に進め、室町時代の能の総合的研究を可能にするよう努めたい。
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