2000 Fiscal Year Annual Research Report
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11610476
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
原 英一 東北大学, 大学院・文学研究科, 教授 (40106745)
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Keywords | 王政復古 / 女性の悲劇 / 小説の勃興 / 演劇 / アフラ・ベイン / 西欧市民社会 / デフォー / リチャードソン |
Research Abstract |
本研究は、英国小説勃興の契機について、王政復古期以来の女性作家・女優及び演劇における女性の表象が文化的にいかなる意味と機能を持つかを検討することを通じて明らかにしようとする試みである。特に王政復古期の演劇で重要な文化的機能を果たした女性と女性の表象とが、小説の創生に向かう社会と文化のベクトルをよく表現し、またその実質でもあったことを認識し、証明することが重要な作業であった。本研究では王政復古期の作家の中でも特にアフラ・ベインを中心として検討することになったが、それにはいくつかの理由がある。一つは、ベインが史上初の女性職業作家であったことである。男性中心のリベルタン文化の中で、彼女がいかにして自己の主体性を保ち、独自の文学的表現に至ったかを検討することにより、小説勃興の底流が明らかとなった。もう一つは、ベインが,後年においては,演劇創作活動から散文ロマンスの創作へと移行した事実がある。その契機となったのは二つの勅許劇場の合体により、新作の上演機会が激減したことである。そのような経済的事情は、ベインの文学に本質的な変化を与えることになった。彼女は散文作品において男性中心の文化の中で女性が抱える問題のより良い表現を見出したのである。特に最後の散文作品である『オルーノコ』では、散文ロマンスから小説という新しいジャンルへの移行が明白に観察される。前半の復古演劇的物語は、後半の南米スリナム植民地を舞台とする奴隷反乱の物語において、本質的な変容を遂げている。そこには人間の肉体とそれを商品化する近代西欧資本主義の葛藤が描かれることになり、デフォーやリチャードソンなど、18世紀の小説家が追求することになる機軸的テーマが提出されている。本研究はベインを中心として女性の文化的機能が小説勃興を内面から準備したことを証明することとなった。
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[Publications] 原英一: "The Absurd Vision of Elizabethan Crime Drama : A Warning for Fair Women, Two Lamentable Tragedies, and Arden of Faversham"試論. 第39集. 1-36 (1999)
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[Publications] 仙台英文学談話会 編: "英文学の杜-西山良雄先生退任記念論文輯-"松柏社. 245 (2000)