Research Abstract |
濁水中で産卵を停止させた親貝を,数日後再び清水中に移すと,直ちに神経分泌細胞である後背細胞(CDC)が 興奮し,産卵ホルモン(CDCH)を放出し始め,20℃で,3時間後には,90%以上の個体が産卵した。誘発刺激後産卵されるまでの卵細胞群の所在と状態とを,瞬間固定法(煮沸法)や in vitro 検定法で追跡し,同時にヘモリンパ中のα-およびβ-エクジソン濃度(ng/ml)をHPLC-EIA法で測定した。誘発刺激後45分以内に排卵が確認され,直ちに両性生殖輸管に運ばれ,その末端部に滞留した。次の輸卵管内での卵の梱包(packaging)が律速段階となっているため,と推察された。同部位で受精後輸卵管内に入り,卵白腺,粘液腺,卵莢膜腺からの分泌物を順次まとい,紐状の卵塊(卵紐;受精卵100-150個を含む)となり,産卵された。CDCH放出後,ヘモリンパ中のβ-エクジソン濃度は急激に増加し,卵の packaging 初期,すなわち卵白腺の分泌期に最大となり,以後急激に減少した。α-エクジソン濃度は遅れて増加し,卵莢膜腺分泌期から産卵直前にかけて最大となった。一方,排卵された卵母細胞は,輸卵管に入る直前には既にリンゲル液,ヘモリンパ液,および低張液中で成熟分裂と発生が可能となっていた。しかし,実際にGVBDは産卵直前に,極体放出と卵割は産卵後に進行した。また,産卵後卵膜ごと卵紐から単離された卵(卵白が包む)も,体液(約 140mOsm)より低張の環境水中でのみ,極体放出と発生とが可能であった。以上の結果から,親貝体内でβ-エクジソンが卵白による卵の梱包を促すことを介して,その GVBD・発生を抑制し,さらにα-エクジソンが産卵直前のGVBDを直接または間接的に誘起する可能性が示唆された。次年度は,卵を包む卵白および粘液の化学成分,ホルモン濃度,物理化学的特性の経時的変化と,成熟分裂および発生への影響などを中心に解析を進める。また,セロトニン等の神経伝達物質,エクジソン等のホルモンが卵(胚)に及ぼす直接効果についても,in vitro 法でさらに詳しく検討する。
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