2001 Fiscal Year Annual Research Report
南アジア地域における経済自由化と「宗教空間」の変容に関する人類学的研究―生活宗教に探る「宗教対立」解消の方途―
Project/Area Number |
11691062
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Research Institution | JAPAN WOMEN'S UNIVERSITY |
Principal Investigator |
関根 康正 日本女子大学, 人間社会学部, 教授 (40108197)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
杉本 良男 国立民俗学博物, 民族文化研究部, 教授 (60148294)
永ノ尾 信悟 東京大学, 東洋文化研究所, 教授 (40140959)
松井 健 東京大学, 東洋文化研究所, 教授 (50109063)
小林 勝 長崎純心大学, 人文学部, 専任講師 (20269096)
三尾 稔 東洋英和女学院大学, 社会科学部, 助教授 (50242029)
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Keywords | 宗教空間 / 南アジア / 経済自由化 / コミュナリズム / セキュラリズム / カースト / 女神 / 聖者廟 |
Research Abstract |
今年度は3年間の調査計画の最終年度として、一年目の概要的把握、二年目のテーマの深化を踏まえて、調査の拡充と総括に向けて各自努力した。1990年代のインド社会において宗教対立が再燃ないし深刻化しているが、それが経済自由化と平行現象であることに注目した。本調査の眼目は、この近年のグローバリゼーションの進展と「宗教空間」の変容をどのように対応づけられるのかを、具体的な日常現場の調査を通じて明らかにすることであった。このような基礎研究によって、ニュースメディアが書き立てる宗教対立の言説を、正確に相対化するとともに、日常現場から見えてくるHindu Nationalistとは言えない「普通」の人々の宗教実践から、宗教対立問題を見直すのである。明らかになってきたことは、生活現場の生活環境の安定性が、宗教対立現象に関与的な主要因子であることである。要するに、それが不安定になれば上から宗教対立の言説に惹かれて不安の由来をそこに読みとってしまう「偽りの投影」に陥りやすくなるということである。逆に、安定性が相対的高い村落部では現今の「対立」傾向を知りつつも生活の場での「共存・調和」を優先させている現実が明らかになった。 現地調査から共通して見出された重大な事実は、そうした村落部でおいてさえ、都市部ではなおさらであるが、宗教のパッケージ化が進んできていることである。これは、生活文化におけるローカル知識も急速な喪失を意味し、それと入れ替わるように生活知識のパッケージ化が進行し、宗教面においてもしかりである。宗教版グローバル・スタンダードの浸透現象である。これは、宗教対立を起こしやすい環境を整えることにもなる。その意味で、私達が注目した宗教の裾野や周辺現象(スーフィー聖者廟、女神信仰、「歩道寺院」、村落寺院、巡礼体系、部族的社会様態など)への関心とそれに関する詳細な実態報告は、それ自体パッケージ化やスタンダード化に抗するベクトルをもつものであり、そうした場所に蓄積されてきた知恵を自覚的に再発見する環境づくりを整備することが、「宗教対立」という言説主導の現実構築の解体のためにはきわめて重要であることが明らかになった。
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Research Products
(21 results)
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[Publications] 関根 康正: "他者を自分のように語れないか?:異文化理解から他者了解へ"人類学的実践の再構築. 322-354 (2001)
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[Publications] Yasumasa Sekine: "Religion and Politics in Contemporary Indian Society : The Complexities of Secularism and Communalism"Faultlines. Vol.11(印刷中). (2002)
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[Publications] 関根 康正: "『宗教空間』としての歩道空間:チェンナイ市1999年〜2001年の『歩道寺院』の盛衰から見える宗教景観"南アジア地域における経済自由化と「宗教空間」の変容に関する人類学的研究:生活宗教に探る「宗教対立」解消の方途(1999年〜2001年度科学研究費補助金基盤研究(1)(2)研究成果報告書).日本女子大学 編著. (印刷中). (2002)
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[Publications] 関根 康正: "文化人類学における南アジア"現代南アジア1.地域研究への招待. (印刷中). (2002)
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[Publications] 松井 健: "部族社会からカースト制へ:ラージャスターンにおける社会=宗教複合の変容"南アジア地域における経済自由化と「宗教空間」の変容に関する人類学的研究:生活宗教に探る「宗教対立」解消の方途(1999年〜2001年度科学研究費補助金基盤研究(1)(2)研究成果報告書).日本女子大学編著. (印刷中). (2002)
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[Publications] 永ノ尾 信悟: "インドはどう変わり、どう変わらないか"アジアを見れば世界が見える. 116-125 (2001)
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[Publications] 永ノ尾 信悟: "消えゆく伝統、肥大化する伝統"南アジア地域における経済自由化と「宗教空間」の変容に関する人類学的研究:生活宗教に探る「宗教対立」解消の方途(1999年〜2001年度科学研究費補助金基盤研究(1)(2)研究成果報告書).日本女子大学編著. (印刷中). (2002)
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[Publications] 永ノ尾 信悟: "儀礼から見たインドの過去と現在:新しいインド学の方途を求めて"東京大学東洋文化研究所60周年記念論文集:アジア学の将来像. (印刷中). (2002)
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[Publications] 永ノ尾 信悟: "Notes on the inauguration ceremony of a water reservoir"木村清孝博士還暦記念論文集・東アジア仏教の形成. (印刷中). (2002)
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[Publications] 杉本 良男: "儀礼の受難"人類学的実践の再構築-ポストコロニアル転回以後. 246-270 (2001)
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[Publications] 杉本 良男: "使徒と聖母:タミルナードゥにおけるキリスト教聖地の現在"南アジア地域における経済自由化と「宗教空間」の変容に関する人類学的研究:生活宗教に探る「宗教対立」解消の方途(1999年〜2001年度科学研究費補助金基盤研究(1)(2)研究成果報告書).日本女子大学編著. (印刷中). (2002)
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[Publications] 杉本 良男: "問題提起-宗教と文明化の二〇世紀"宗教と文明化. (印刷中). (2002)
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[Publications] 三尾 稔: "祭礼の『復興』:ラージャスターン州ウダイプールにおける都市的祭礼の継承と創造"南アジア地域における経済自由化と「宗教空間」の変容に関する人類学的研究:生活宗教に探る「宗教対立」解消の方途(1999年〜2001年度科学研究費補助金基盤研究(1)(2)研究成果報告書).日本女子大学編著. (印刷中). (2002)
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[Publications] 三尾 稔: "聖者廟空間におけるアイデンティティー・ポリティクスの生成とその回避"国立民族学博物館研究報告. 26(印刷中). (2002)
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[Publications] 三尾 稔: "現代インドにおける宗教の変容"叢書現代南アジア. 5(印刷中). (2002)
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[Publications] 小林 勝: "南インド・ケーララ地方におけるシリアン・カトリックとカトリック・ミッション"南アジア社会におけるキリスト教と社会文化的変容に関する研究,基盤研究B(2)研究成果報告書. 21-41 (2001)
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[Publications] 小林 勝: "家・タラワード・女神寺院・民族誌学のためのイデオロギー入門"文化人類学を再考する. 19-62 (2001)
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[Publications] 小林 勝: "地域社会における寺院の変容とヒンドゥー・アイデンティティへの試論:ケーララ州中南部での調査から"南アジア地域における経済自由化と「宗教空間」の変容に関する人類学的研究:生活宗教に探る「宗教対立」解消の方途(1999年〜2001年度科学研究費補助金基盤研究(1)(2)研究成果報告書).日本女子大学編著. (印刷中). (2002)
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[Publications] 小林 勝: "空虚なる法、聖なる暴力:インドのコミュナリズムにおける『宗教』"宗教と文明化の二〇世紀. (印刷中). (2002)
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[Publications] Yasumasa Sekine: "Anthropology of Untouchability :"Impurity" and "pollution" in Tamil Society"Osaka National Museum of Ethology. 383 (2002)
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[Publications] 松井 健: "遊牧という文化:移動の生活戦略"吉川弘文館. 213 (2001)