2000 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
11873003
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Research Institution | Yokohama National University |
Principal Investigator |
有江 大介 横浜国立大学, 経済学部, 教授 (40175980)
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Keywords | 功利主義 / 自然神学 / 快楽主義 / ベンサム / ペイリー / ダーウィン / 種の起源 / 経済思想 |
Research Abstract |
3年計画の2年次にあたる平成12年度は、自然科学史の研究成果を利用しつつ、19世紀イギリス自然神学の推移のうち神学的功利主義から世俗的功利主義への転換と言われるウィリアム・ペイリーとジェレミー・ベンサムとの対比的検討と、ダーウィン主義が自然神学的保守主義に与えることになる打撃的影響の前史に研究の焦点を絞った。社会科学的視点からのこうした研究の成果の一部を、オーストラリア経済思想史学会(2000年7月)においてベンサムに関する報告という形で発表した。 この間に得られた新たな知見は、第一に、広く受容されたペイリー自然神学の持つ二面的性格、すなわち啓蒙期以降の自然科学上の新知識を巧みに取り入れつつも、社会観や人間観では既存の秩序やモラルを維持するという本質的な保守性を保っていたことを、『自然神学』(1802)の記述に即して明確に示した点である。 第二に、批判されることの多い物的快楽も含む心理的快楽主義に立つベンサムの功利主義が、従来のキリスト教的倫理に背反的な人間観を提示すると同時に、貧困や犯罪に象徴される現実社会の不完全さを示すことでペイリー流の現状肯定とは逆の、実は改革に向けての社会の可変性をうたう革新的な思潮であることを積極的に示したこと。 第三に、ヴィクトリア時代イギリスの保守主義的社会観・人間観に最終的に打撃を与えたものがダーウィンの『種の起源』(1859)であり、ペイリー信奉者であったダーウィンの基本アイディアに対してマルサスの『人口論』が影響を与えていたという科学史上の周知の事実を、社会科学と自然神学との関係という視点から評価し直したことである。 これらは、自然神学・功利主義・社会科学の相互関係を解析するという点において、19世紀イギリス知性史の新たな視点からの研究の萌芽となりうるものと考える。
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Research Products
(2 results)