2011 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
11F01337
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
山口 茂弘 名古屋大学, 理学研究科, 教授
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
CHOU Chih-Ming 名古屋大学, 理学研究科, 外国人特別研究員
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Keywords | π電子系 / 固体構造制御 / 分子間相互作用 / エキシマー蛍光 / アントラセン / ペンタセン |
Research Abstract |
複数の入力情報に応答し多段階の状態をとりうる材料は、次世代スマートマテリアルの究極形態の一つである。本研究ではその実現手段として、柔軟に構造変化が可能なリンカーを用いて、優れた固体物性を示す2つのπ電子系骨格を連結した分子系を設計する。そして、それらのπ電子骨格の固体状態における配向および骨格間の相互作用の変化を制御することで物性のスイッチングを目指す。この系では、リンカーがとりうる状態に連動してπ電子骨格同士の距離と配向は多様に変化し、相互作用のスイッチングに伴い各種物性(吸収、蛍光、電荷移動度、相転移温度、固体モルフォロジーなど)が変化するものと期待できる。このことは、固体中での構造制御によって動的な固体物性を示すπ電子系の構築を意味する。本計画の実現により、機能性π電子材料の新たな設計指針を確立することを目指す。 我々はまず、優れたπ電子骨格として、高い発光性を示す9,10-ビス(2-チエニル)エチニルアントラセン、高いホール移動度が期待できる6,13-ビス(2-チエニル)エチニルペンタセン骨格を選定し、これらの骨格をアルキレン鎖で環状に連結した二量体の合成に取り組んだ。既に前者のアントラセン類縁体の二量体の合成には成功しており、その溶液または固体状態における吸収や蛍光などの光物性を、対応する単量体と比較した。その結果、単量体は溶液中で498nmに量子収率0.84という蛍光を示したのに対し、二量体では563nmへと長波長シフトした蛍光(量子収率0.72)が観察された。これは、アルキレン鎖で架橋したことによりπ共役骨格の配向が制限され、溶液中でもエキシマーが形成しやすくなったためと考えられる。既に我々が報告しているオリゴチオフェン二量体の例では溶液中での蛍光シフトは観察されていないことから、このπ共役系特有の現象とみられ、現在そのメカニズムの詳細解明に努めている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の計画よりも早く、標的分子の一つである9,10-ビス(2-チエニル)エチニルアントラセンのアルキレン架橋環状二量体の合成に既に成功しており、単量体との光物性を比較することができた。その結果、この分子系に特有の溶液状態における蛍光の長波長シフトが観測され、現在そのメカニズムの詳細解明に向けて実験を進めている。
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Strategy for Future Research Activity |
現在、合成した9,10-ビス(2-チエニル)エチニルアントラセンのアルキレン架橋環状二量体の固体状態におけるパッキング構造を明らかにするため、単結晶X線構造解析に挑戦しているが、高い再現性で特有の曲がった形の結晶が得られ、構造の解明には至っていない。しかし、このように曲がった結晶が得られる原因は興味深く、そのメカニズムが分子設計に起因したものなのかどうかを調査する必要がある。単結晶X線だけでなく粉末X線データの解析とあわせて固体状態でのパッキング構造の分析を進める予定である。また、もう一つの標的分子である6,13-ビス(2-チエニル)エチニルペンタセン二量体の合成と構造・物性解析も同時に進める。
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