2012 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
11F01747
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
藤原 克己 東京大学, 大学院・人文社会系研究科, 教授
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
GERLINI Edoardo 東京大学, 大学院・人文社会系研究科, 外国人特別研究員
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Keywords | 比較文学 / シチリア詩派 / 平安朝文学 / 宮廷 / 恋情文学 / 様式化 / 古今集 |
Research Abstract |
平成23年度にヨーロッパ中世文学(宮廷文学)を中心に、その諸相を分析したが、平成24年度にその分析の結果を平安朝文学に適応してみた。本研究計画書に想定した通り、日本の9世紀とイタリアの13世紀は、文学だけではなく、歴史や社会学的な側面から見ても、相応しい比較対象であることを確認した。その比較の結果は次のようにまとめることができる。フェデリーコ2世帝王と嵯峨天皇・宇多天皇は、政治的政策と文化的政策の双方において共通点を有し、個々の歴史的背景において画期的な進化/発展を意識的かつ積極的に促進したと考えられる。その政策の一例として、国家大学(大学寮とナポリのストゥディウム)を創立し、その大学から卒業する者を国家官僚制に登用することである。このような公的教育や文化的政策は「文人」の思想や作品に直接な影響を与え、君主を讃美する作品の性格を左右する。近年、他の学者(例えば、Wiebke Deneke)に問題点として指摘された文語/俗語の対立性も以上の分析の流れに合流し、漢文/和文とラテン語/イタリア語という構図で、分析した。俗語文学の誕生やその評価の定着、いわゆる文学的カノンの形成という問題を考える際に、初期イタリア文学と初期平安朝文学は興味深い例であることは、『古今和歌集』とシチリア詩派の詩集を具体的に比較することによって明らかにした。その比較の重要点は、1)詩的言語の様式化と外国文学からの翻訳や受容、2)恋愛の新しい扱い方と利用、3)政治に関する討論や批判の排除である。それに、古今集歌人とシチリア詩人という集団の構成を分析すると、改めて君主と権力との関わり、出自、教育において、他の時代や国と異なる共通点を見出すことができた。以上の成果を英語の論文にまとめており(現在80頁程度)、海外の学界に公表する予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
昨年度に平安朝とシチリア宮廷という対象の相違点をどのように本研究の比較によって整理できるかという問題について詳しい分析を行ったため、テキスト(原文)比較のほうはやや遅れてきたが、このような分析の成果によって、より確実な基礎に基づくテキスト比較ができるようになったと考えられるので、長い目で見ると順調に進展していると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
残りの研究期間に10.にまとめた実績を英語の論文にする。その論文の理論的構造にテキストの具体的な例を挿入し、本研究の主な実績としてあげる予定である。また本研究の一環として宇多天皇の側近文人官僚として活躍した菅原道真の漢詩数十首をイタリア語訳して刊行する予定である。
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