2012 Fiscal Year Annual Research Report
亀井文夫監督作品におけるドキュメンタリーとリアリズム
Project/Area Number |
11J00117
|
Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
フィオードロワ アナスタシア 京都大学, 人間・環境学研究科, 特別研究員DC1
|
Keywords | 亀井文夫 / ドキュメンタリー / リアリズム / 日露映画交流史 |
Research Abstract |
本年度は、亀井文夫や、彼と同時代を生きた映画人の「リアリズム」及び「ドキュメンタリー」に対する見解を明らかにしていくための基礎的作業としてまず、日本各地の図書館で収集してきた一次資料の整理を行った。これらの資料のなかでは、1951年~1954年にかけて出版されていたプロパガンダ雑誌『ソヴェト映画』に注目し、紙上における日本映画やリアリズムに対する言及に関しての論文をまとめた("Kaщeй БeccMepтный, Бyлaт Бaлaгyp и лpyгиe пepcoнaжи coвeтcкoro кинeмaтoгpaфa в пocлeвoeннoй Япoнии"、「戦後の日本における不死身の魔王、ブラート・バラグール及その他のソビエト映画の主人公たち」//Иcтopия и кyльтypa Япoнии No14, M.)。他方で、本年度は戦前の日本における文化人のリアリズム理解についても研究を広げた。1932年に撮影され、日本とソ連の両国で公開された日ソ初の合作映画『大東京』(発声ドキュメンタリー映画)の製作・公開のプロセスに焦点を当てた発表をフランスとロシアで行い(アルザス日欧知的交流事業・日本研究セミナー「大正/戦前」、RGGU大学主催第15回"History and Culture of Japan"学会)、これらの発表に基づいた論文も既に投稿している。映画『大東京』を論じるにあたっては、1930年代の左翼知識人が抱いていたソビエト映画のリアリズムに対する期待や、サイレントからトーキーへの移行期において日本の音楽家が暖めていた映画音楽に対する理想、1931年に起こった満州事変を境に緊張が高まっていった日ソ関係などに対して新たな見解を提示することが出来た。本年度の秋から冬にかけては、ロシア国立映画保存所「ゴスフィルモフォンド」でリサーチを行い、1954年のソビエトで公開された亀井文夫監督の劇映画『女ひとり大地を行く』(1953年)を観ることができた。ソビエトで公開されたバージョンと日本のオリジナル版の違いについては、来年度に論文を発表する予定である。モスクワでの滞在中には、RGALI、RGASPI、GARFといった国立アーカイヴでも調査を行い、亀井文夫がレニングラードの映画学校に留学したいた際に、ロシアで上映された日本映画の再編集作業に携わっていたことなど、亀井のソビエト留学経験に関して新たな情報を得ることに成功した。諸アーカイヴで発見することが出来た一次資料の数々は来年度の前半を通して整理していく予定である。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
数々の学会で口頭発表をして、学術論文を投稿している。2012年10月から2013年3月にかけて、ロシアの諸アーカイヴで調査を行い、1929年のソビエトで上映された日本映画の再編集作業に、当時ソビエトに留学していた亀井文夫が携わっていたことなど、亀井のソビエト留学経験に関して新たな情報を得ることができた。また、ロシア最大のフィルム・アーカイヴであるゴスフィルモフォンドでは、亀井文夫の劇映画『女ひとり大地を行く』(1953)がソビエトで公開されたときのフィルムを発見することができた。
|
Strategy for Future Research Activity |
(3)3年間の全研究成果を再吟味した上で、博士論文の執筆を行う。テーマは、「日露映画交流史の観点から見た日本映画におけるリアリズムの伝統」に設定し、第一章では、日ソ初の合作映画『大東京』の製作・公開について、第二章では、ソ連に留学していた映画監督、亀井文夫の紀行映画におけるソビエト映画の影響について、第三章では、戦後の日本におけるソビエト映画の受容について、第四章では、戦後の日本におけるリアリズム観の形成について、第五章ではソビエト・ロシアにおける日本映画の受容について考察する。博士論文を通して、主な研究対象とするのは、日露の映画交流において中心的な役割を果たしていた、亀井文夫監督の作風である。
|
Research Products
(7 results)