2012 Fiscal Year Annual Research Report
GISを基盤とする考古遺跡のデジタルドキュメンテーションおよび空間分析の新展開
Project/Area Number |
11J00130
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Research Institution | Tokyo Institute of Technology |
Principal Investigator |
近藤 康久 東京工業大学, 大学院・情報理工学研究科, 特別研究員(PD)
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Keywords | 考古学 / 遺跡分布調査 / リモートセンシング / GIS / 古地形 / 遺構マッピング / アラビア半島 / オマーン |
Research Abstract |
1.前年度から継続して,生態文化ニッチモデリングの改良を進め,空間分解能の低い古気候モデルを,現在の気候値を用いて高解像化する方法を確立した。この方法を用いて,『日本列島の旧石器遺跡』データベースを典拠とする関東甲信越地方の後期旧石器遺跡を対象に,最大エントロピーモデルMaxEnt法によるニッチ分布予測を行なったところ,狩猟具となる石器群によってニッチの地理的範囲が異なることが明らかになった。 2.平成24年12月10日から平成25年3月11日までオマーンに渡航し,バート遺跡群に隣接するアル=ムカイダおよびワディ・アル=カビール地区において遺跡分布調査を実施した。アルニムカイダ地区では,後期更新世の石器散布を19地点で確認した。それらの多くはチャート石材の原産地の近傍にあり,石核や接合資料も見つかったことから,石器製作址と考えられる。石器群はオマーン南部ドファール地方で発見された"Leptolithic"に類似しており,バート一帯では新発見であった。また,ワディ・アル=カビール地区では,計21か所の遺跡ないし遺物散布地を確認した。 前期青銅器時代ハフィート期の所産とみられる積石塚246基以上を記録し,石器類を採集した。さらに,同地区内のアル=ハーシ遺跡で青銅器時代とイスラーム時代の集落址を発見した。土器片が高密度に散布する耕地で,標準ふるいを用いて土壌粒度検査を実施し,土器片が流水によって運ばれてきたものではないことを確かめた。GPSアンテナ付きフィールドGIS端末を用いて地表に露出している石列のマッピングを実施したところ,遺跡は南北2km,東西1kmの広がりをもち,青銅器時代の円形基壇5基・円形墓2基と居住区,イスラーム時代の耕地・灌漑水路・水道橋・堤防・居住区・周壁を伴うことが明らかになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
申請書に記載したGPSを用いた遊牧民の行動調査については,遊牧民ベドウィンが都市に定住化し,牧場には南アジアからの出稼ぎ労働者を常駐させて家畜を管理させる慣行が常態化しているため,伝統的な遊牧行動のデータ取得が困難であることが判明した。その一方で,生態文化ニッチモデリングと遺跡分布調査では当初計画以上の成果が上がり,現在国際査読誌への投稿を準備中である。そのため,総合的に判断すると,おおむね交付申請書に記した研究実施計画の通りに進捗していると評価できる。
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Strategy for Future Research Activity |
遺跡分布調査により,研究計画の主眼とした青銅器時代に先行する旧石器時代・新石器時代と後続するイスラーム時代の遺跡も発見したので,これらのデジタルドキュメンテーションも視野に入れて研究を進める。空間分析については生態文化ニッチモデリングの方法が確立したので,これを実際の遺跡分布に適用して時代毎の土地利用を推定することにより,空間分析とフィールド調査の成果を融合させることをめざす。
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