Research Abstract |
研究目的を達成するために平成23年度に行った研究内容は,以下のようにまとめられる. 1.台湾の山地を対象として,decision-tree modelを用いて,斜面崩壊の発生と地形・地質との関係を解析した.また得られた結果を,日本の赤石山脈での結果(Saito et al., 2009,Geomorphology)と比較・検討した. 台湾の山地で斜面崩壊発生地を推定した結果,10-fold cross-validationによる正解率は78.3%であった.この値は,既存研究とも遜色ない結果である.Tree構造からは,斜面崩壊が発生する小流域は傾斜の平均が約34°より大きく,地質がShihti Formationではないことが示された.この傾斜に関する結果は,日本の赤石山脈での研究(Saito et al., 2009, Geomorphology)や,台湾における研究(Oguchi et al., 2011, Geomorphometry 2011)とも整合するものである.つまり湿潤変動帯の山地では,傾斜が約34°を超えた斜面は不安定になり,斜面崩壊が発生しやすいことが確認された. 2.斜面崩壊を引き起こす降雨イベントをリアルタイムでモニタリングするシステムを構築し,運用した(齋藤ほか,2011,GIS-理論と応用).本システムは,Normalized Soil Water Index(NSWI)と呼ばれる指標を基に,現在の降雨イベントが斜面崩壊を発生させやすいかどうかを,モニタリングするものである.2011年は,台風12号により紀伊半島で甚大な土砂災害が発生した.本研究では,台風12号による降雨イベントのモニタリング結果を検証した. その結果,台風12号による一連の降雨イベントで,NSWIが高い場所ほど斜面崩壊が発生していた.崩壊が発生した場所と発生しなかった場所におけるNSWIの値は,Wilcoxonの順位和検定において有意水準1%で差が認められた.つまり,本システムのモニタリング結果は,斜面崩壊が起こりやすい降雨イベントの特徴をモニタリング出来ていたと言える.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本年度は国立台湾大学の研究者と斜面崩壊に関する共同研究を始め,日本国内の研究だけでなく,台湾での降雨に起因する斜面崩壊に関する現地調査や資料収集,データ解析を行った.また,日本国内を対象に,斜面崩壊を引き起こす降雨イベントのモニタリングに関する論文を発表し(齋藤ほか,2011,GIS-理論と応用),2011年台風12号による紀伊半島での土砂災害の検証を行った.これらの成果は,国内の学会やAGU Fall Meeting 2011等で発表した. 以上より,現在までの達成度は,当初の計画以上に進展しているものであると言える.
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Strategy for Future Research Activity |
今後は,台湾での斜面崩壊の発生と地形・地質との関係の解析をより広域に広げて,日本での結果と比較・検証を行う予定である.また,米国西海岸などの降雨に起因する斜面崩壊が頻発する地域を対象に解析を行う.さらに斜面崩壊の発生と地形・地質との関係以外にも,降雨量との関係の解析を行う.その際には,斜面崩壊の規模も考慮する予定である.
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