2011 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
11J00275
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
西 大海 九州大学, 大学院・農学研究院, 特別研究員(DC1)
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Keywords | 昆虫病原性糸状菌 / 分子系統解析 / 病原性 / Metarhizium属 / コガネムシ科 / 種分化 / 地理的分布 / 宿主特異性 |
Research Abstract |
研究の目的は昆虫病原性糸状菌について病原性および環境適応性と関連した系統進化の過程をMetarhizium属糸状菌をモデルとして明らかにすることである。病原性と系統関係については,コガネムシ科に特異的な病原性をもつM.majusを中心に調査を行い,同種の種内で異なるコガネムシ科の種に特化した系統分化が起っていることを初めて明らかにした。このような病原型の細分化は大多数の昆虫病原性菌類の種が所属する広義のバッカクキン科(Clavicipitaceae)においても初めての発見である。病原性比較の結果から少なくともハナムグリ病原型とサイカブト病原型の2病原型が存在することが明らかとなったが,分子系統解析と宿主の関係はさらに多くの病原型の存在を示していた。また,浸漬接種と注射接種による病原性の比較の結果はM.majus内の系統間の病原性の差異がクチクラからの侵入過程で生じていることを示していた。 Metarhizium属糸状菌の系統関係と環境適応性の関係を明らかにするため,生態分布の調査を行った。全国200以上の土壌サンプルの調査の結果,M.majusについては、ハナムグリ病原型は九州の3サンプルから分離され,サイカブト病原型は分離されなかった。サイカブト病原型は宿主であるタイワンカブトムシが存在する南西諸島にのみ分布していると考えられるが,南西諸島の土壌サンプルが少なかったために今回の調査では分離されなかったと考えられる。ハナムグリ病原型の分布状況については、分離頻度が少ないため,宿主の分布および生態との関連性については未解明である。他の種については,M.brunneumのみが遺伝子型と地理的分布とが対応しており,九州と北海道で遺伝子型が分かれた。昆虫病原性糸状菌において,これまでにこのような地理と関連した遺伝子型は報告は少ない。同種は森林(低温環境)に適応していることにおいても近縁種と比較して特殊であり,森林への適応と地理的隔離とが関連している可能性がある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
コガネムシ科に特異的なMetarhizium majusについて,土壌環境への適応,生態分布については,まだデータが少ない状況であるが,分子系統樹と病原性との関連を詳細に明らかにし,昆虫病原性糸状菌における新知見を得ることができたため。
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Strategy for Future Research Activity |
病原性の適応については,Metarhizium majusについて,病原性試験と系統解析によりハナムグリ病原型およびサイカブト病原型以外の病原型の存在を明らかにする。また、それぞれの病原型および異なる宿主間で,分生子の昆虫クチクラ上での遺伝子発現を比較し,病原型分化の関連遺伝子を明らかにする。 M.majusが宿主の土壌環境下(宿主の生息環境を模擬した環境とそれとは異なる環境)での耐久性を比較し,宿主と対応した環境適応を調査する。 Metarhizium属の他の種においても適応的な性状をもつ系統を含む系統群についてM.majusと同様の調査を行う。
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Research Products
(4 results)