2012 Fiscal Year Annual Research Report
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11J00275
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
西 大海 九州大学, 大学院・農学研究院, 特別研究員(DC1)
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Keywords | 昆虫病原性糸状菌 / Metarhizium / カイコガ / 湿度 / エンマコオロギ / 宿主範囲 / 高温ストレス / 凍結解凍ストレス |
Research Abstract |
1.Meterhizium属糸状菌の病原性の系統間差異同属糸状菌の系統間の病原性の差異をカイコガ(錦秋×鐘和ハイブリッド)を用いて定量的に示すことを試みた。同系統は糸状菌感染に対して高い抵抗性を有するが、高湿度条件下では系統間の病原力の差異が致死性として顕著に表れ、系統間の差異を定量的に示すことができた。 高湿度条件でのカイコガに対する病原力にはMetathizlum属糸状菌の系統群ごとの特徴が表れる傾向があり、特にM.brunneumのクレードに所属する分離株が他のクレードに所属する分離株より強い病原力を示す傾向があった。同種の日本株は同属内では他の種よりも森林環境の土壌から検出される傾向があり低温環境での生育に適応した培養性状を示すことを昨年度明らかにしていた。森林は草地などの環境より低温であるだけでなく高湿度であるとも考えられるが、同種が他の種と比較して高湿度条件でより高い病原力を示すことは森林環境への適応である可能性がある。M.brunneumは温室内の害虫や葉面に定着する害虫など高湿度環境の害虫の防除に効果的であるかもしれない。 飼育中のエンマコオロギに流行病を起こしたMetathlzlum属の分離株は他の分離株と比較してカイコガに対しては極端に弱い病原力を示したが,エンマコオロギに対しては最も強い病原力を示した。塩基配列の解析の結果,同株はrDNAの介在領域に固有の塩基配列多型を有していた。オーストラリアのコモダスエンマコオロギ由来の株も同様の病原性を示したが,同分離株株と近縁な関係にあることが明らかとなった。野外で発見されるMetathizlum属糸状菌の多くは宿主域が広いタイプとされているが、カイコガに対する病原力の比較と塩基配列の解析により、その中から特定の昆虫に適応した系統の存在を特定することが容易になるかもしれない。 2.Metathizium属糸状菌の生理学的性状の系統間差異各系統の高温刺激の生育や生存率に及ぼす影響を評価した。分生子懸濁液に高温処理(45℃で2時間)後の発芽率を比較した結果、森林環境に適応したM.brunneumおよび,M.flavovirideのクレード内の系統では他の群と比較して生存率に影響は無かったが、発芽速度が大きく遅延する傾向が観察された。凍結解凍ストレスの生存率に及ぼす影響についても比較を行った。M.brunneumのクレード内では北海道株と九州・本州株が異なるサブクレードに分割されるが、その菌株の間に温度特性および病原性における差異は見いだされず、凍結解凍ストレスに関連している可能性を予想した。しかし、ストレス処理後の生存率は緯度や系統関係に関係した差異は見いだされなかった。ストレス処理は分生子を界面活性剤に懸濁した状態で凍結解凍を繰り返す処理を行ったが、より野外で受けるストレスにより近い凍結解凍ストレスの処理法を検討する必要があると考えている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
病原性と生理学的適応に関する分離株間の差異と系統関係との関連性について新たな知見を得られたことに加えて、各分離株における生息環境への適応と宿主への適応の両方が実験環境下での病原性試験に表れることを示唆する結果が得られたため。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は病原性と生理学的性状の系統間比較をさらに行っていく。特に病原性単独ではなく,温度や湿度が病原力に及ぼす影響も考慮して系統間の比較を行うことにより,生理学的適応と昆虫への適応との接点を明らかにしていく。
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Research Products
(7 results)