2011 Fiscal Year Annual Research Report
17世紀インドシナ半島におけるイエズス会士の布教と外交
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11J00550
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
阿久根 晋 京都大学, 人間・環境学研究科, 特別研究員(DC1)
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Keywords | イエズス会 / イエズス会日本管区 / キリシタン / ポルトガル / マカオ / イエズス会文書館 / アジェダ図書館 / 海域アジア史 |
Research Abstract |
本研究の研究対象はキリシタン禁制以後のイエズス会日本管区の動向であり、検討地域は主に東南アジアである。各地域におけるキリスト教界拡大とその要因および特徴、イエズス会士の立案・実行した布教政策とその結果、イエズス会士の世俗事情への関心と関与、以上の諸点を解明することが本研究の目的である。 本年度は前半をポルトガルとイタリア(ヴァチカンを含む)での史料収集、後半をその分析に充てた。訪問した文書館は次の通り。 ポルトガル:アジュダ図書館(Biblioteca da Ajuda)、海外領土文書館(Arquivo Historico Ultramarino)、トーレ・ド・トンボ文書館(Arquivo Nacional da Torrede Tombo)、エヴォラ図書館(Biblioteca Publicade Evora) イタリア:イエズス会文書館(Archivum Romanum Societatis Iesu)、布教聖省文書館(Archivio Storicode Propaganda Fide) ベトナム北部トンキン(黎帝一鄭氏政権)関係史料の分析の結果、同地におけるキリスト教界の地域的展開の過程と布教の量的成果が部分的に明らかとなった。1630年代初期の年報に従えば、イエズス会日本管区は先ず王都の昇竜、次いで清化と又安に伝道拠点を持った。1630年代後期には、王都に隣接する山西と京北、ならびに交戦状態にあったコーチシナ(阮氏政権)との境界である布政にまで教線が伸び、開教後5年程度でトンキンのほぼ全域に教界が築かれた。さらに以上の事業に並行して、トンキン在留のイエズス会士によってラオス国王との布教許可をめぐる交渉も進められた。このようにキリスト教界の展開過程を瞥見した結果、トンキンのイエズス会が同会日本管区にとって主導的役割を担う組織に成長したことも確認された。 教界領域の進展に伴い信者数も着実に増加した。1630年代国王鄭氏は数回にわたり宣教師追放命と禁教令を発布したが、トンキンにおける改宗者数の年間平均は約7000人を数えた。イエズス会士の実践した適応政策(現地人伝道士の養成など)がこの成功の一要因といえるが、現地の社会各層のキリスト教への認識・対応・保護の在り方も看過できず、現在は特に後者の点を検討している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は当初、コーチシナ布教関係の文書を分析し、これと並行してトンキン布教の状況も確認する計画であった。しかしながら、予算と調査日程の都合もあり、コーチシナ関係の文書をローマのイエズス会文書館において入手することができなかったため、コーチシナにおける布教状況を充分に把握するには至っていない。既刊史料によりその課題を部分的に解消することができたが、文書史料と既刊史料の記載内容を突き合わせて検討する作業は行なっておらず、この点が課題として残されている。
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Strategy for Future Research Activity |
王家家族および王府内の高位官僚の改宗、地方領主およびその臣下のキリスト教への態度と保護、仏僧の改宗と民衆伝道における役割、キリスト教関係漢籍のトンキン流入などの観点を手がかりとし、トンキンにおける教勢拡大の背景や要因を具体的に解き明かすことに努める。 併せてトンキン鄭氏とコーチシナ院氏による南北抗争(1627-72)の間、この抗争がイエズス会の布教にいかなる影響を与えたか、またイエズス会がこの戦争にいかに関与したか、そしてイエズス会士がそれらをいかに記録したか、これらの問題も念頭に置き研究を進める。 史料調査・収集については、ローマおよびヴァチカンの関係文書館において重点的に行う予定である。
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