2012 Fiscal Year Annual Research Report
17世紀インドシナ半島におけるイエズス会士の布教と外交
Project/Area Number |
11J00550
|
Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
阿久根 晋 京都大学, 人間・環境学研究科, 特別研究員(DC1)
|
Keywords | イエズス会 / マカオ / ポルトガル / ベトナム / キリシタン / アジュダ図書館 / イエズス会文書館 / 東南アジア史 |
Research Abstract |
<史料調査> 昨年11月から12月にかけては、南欧各国の文書館を訪問し、ベトナム中南部コーチシナ広南院氏政権下におけるイエズス会の布教に関する史料を中心に採集した。今回は新たにスペイン・マドリードの王立学士院Real Academia de la Historia de Madridでの調査も実施した。 <史料分析> 文書館調査以後は、日本やトンキン布教との比較を意識して『コーチシナ年報』(ローマ・イエズス会文書館蔵)の分析を進めた。1615年の開教以降、宣教師は会安とその周辺を拠点とし、徳川政権の迫害を逃れた亡命日本人キリシタンおよび日本人商人の支援を得ながら、日本人を対象とする布教を実施した。これと並行して現地社会に向けた布教も行い、1620年代には、王都の順化からコーチシナ南端のチャンパとの境界付近にまで教界を展開させる。トンキンにおける布教と同様、コーチシナの王都におけるキリスト教の浸透は、主として王家の有力女性の受洗と彼女らによる周囲への教化活動に基づくところが大きかった。また1630年代以降、宣教師に養成された現地人伝道士がキリスト教界の維持と拡大に貢献した点も、トンキン布教との共通点である。 17世紀のベトナムでは南北間の分裂・対立状態が続いており、双方とも海外貿易を通じた富国強兵策を進めた。史料から確認される限り、コーチシナ院氏はトンキン鄭氏よりもマカオのポルトガル商人との通商関係を重視していたようである。 これに関しては、コーチシナ在住の宣教師が、トンキン布教への悪影響を懸念しながらも、コーチシナにおける布教事情の好転を期して、マカオ・コーチシナ貿易の仲介を担い、マカオの火器をコーチシナに輸出することに関与した事実が確認された。 以上、一次史料を主な情報源としてイエズス会日本管区による南北ベトナム布教のおよその輪郭を把握し、17世紀東南アジア布教・東アジア布教の比較研究に必要な研究素材の一つを得られたことが、今年度の研究成果と意義である。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究遂行に欠かせないイエズス会側の文書史料については、前年度と今年度の史料調査において殆ど入手できたように思える。またこれまでの研究成果については、関連分野の研究会や国際シンポジウムなどを通じて公開することができた。さらに研究に並行して、前近代ベトナム史とイエズス会布教史研究を主専攻とする大学院生らとともに自主的な講読ゼミを定期的に開催し、研究上の情報交換と議論を重ねつつ欧文と漢文史料の訳読作業を進めている。今年度は史学系学術雑誌への論文掲載はなかったものの、現段階において研究は比較的順調に進展しているものと思われる。
|
Strategy for Future Research Activity |
イエズス会の布教活動とも密接に関わっていたマカオのポルトガル商人や市議会の要人、さらには本国から派遣された総督(capitao general)の貿易方針に関する史料については、充分に入手できておらず、関連文書群の全体像も確実には把握できていない。次年度の南欧調査では、ポルトガルのリスボン国立図書館、国立トーレ・ド・トンボ図書館、海外領土文書館での調査を重点的に行う予定である。 またこれまで各研究会や国際会議で発表した幾つかの研究成果を論文の形式で公開することも、今後の必須課題である。
|