2011 Fiscal Year Annual Research Report
個体間相互作用による種内から群集スケールでの多様性維持機構に関する数理的研究
Project/Area Number |
11J00598
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
高橋 大輔 京都大学, 理学研究科, 特別研究員(DC2)
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Keywords | 進化 / 食物網 |
Research Abstract |
本研究は食う食われる関係の進化を扱う個体ベースモデルを用いた計算を行い、その解析を行うことで個々の種の進化が群集構造に与える影響を理解することを目的とするものである。モデルは捕食者形質と被食者形質の2つの形質を持つ無性的に増殖する個体を仮定している。ある個体とまた別の個体間の食う食われる関係は、個体の持つ捕食者形質が他方の持つ被食者形質に近い値を持つときに大きいとし、また類似する捕食者形質を持つ個体が存在するときは競争により死亡率が増大するとした。形質の小規模な突然変異が繰り返されることで進化が取り入れられており、進化と個体群の2つの動態を同時に表現することができる。 食物網研究でしばしば用いられている指標を適用したところ、この進化モデルで生じた食物網ネットワークは単純ではあるものの低いintervalityといった実際の食物網と共通する特徴を持っていることが明らかとなった。さらに、進化的時間スケールにおいて群集が構築・崩壊する過程の双方において一次および二次の栄養段階の種における相互作用が重要な役割を持っていることが示唆された。特に崩壊過程において、ある二次の栄養段階の種が絶滅することによる一次の栄養段階の種間の個体数が大きく変動し、それによってさらに高次の栄養段階の種が絶滅するという過程が観察された。これらの内容に関して、6月28日から7月2日にかけてクラコフ(ポーランド)で行われたECMTB 2011において発表した。 しかし、この連鎖的な絶滅には進化動態が重要な影響を及ぼしていることも示唆されている。シミュレーションの各瞬間で得られた群集に対して、進化動態を無視した近似モデルを考えて線形安定性解析を行ったところ、高次の栄養段階の種が連鎖的に絶滅している期間においても個体群動態では安定であることが観察された。従って、進化を含まないモデルではモデルで観察された群集の崩壊を説明できず、この連鎖的な絶滅は進化によって駆動されていることが推測される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
今年度において、数値シミュレーションで観察された進化的時間スケールにおける大規模な群集の再編成(大規模な絶滅・種分化)がどのような現象として進行しているかを明らかにすることができたものの、それに関する論文はいまだ投稿に至っていない。また、上に述べた群集の進化について、現象としては理解されたもののメカニズムという点では今年度中にきちんと明らかにすることができなかった。
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Strategy for Future Research Activity |
項目11で述べたように、本研究をさらに進めるにあたって、進化によって大規模な群集の再編成が引き起こされるメカニズム、及びその条件について理解する必要がある。しかし個体ベースのモデルでは非常に複雑度が高く、解析が困難である。このため、少数の種からなる群衆を連続なLotka-Volterra方程式をベースとした連続な進化モデルを用いて近似的に表現し、その方程式の解析を当初計画していた個体ベースモデルと並行して行うことで、観察された現象を理解することを計画している。
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