2012 Fiscal Year Annual Research Report
20世紀前半期中国の郷村構造研究-広東・宗族・地域エリートを中心に-
Project/Area Number |
11J00664
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
宮内 肇 大阪大学, 文学研究科, 特別研究員(PD)
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Keywords | 広東 / 郷村 / 自治 / 宗族 |
Research Abstract |
1、「第二次広東軍政府の陳炯明による地方自治政策による郷村の反応」に関する研究 1920年末、広東省長陳炯明は地方自治政策の一環として、県長・県議会議員の民選を実施したが、そのうち県議会議員に当選していったのは省内各県の有力宗族の代表者であることを明らかにした。さらに、郷村レベルでも地方自治政策に対して、とりわけ郷村内の青年が中心となり、祠堂や祖先祭祀の統合によって郷村自治のための経費を捻出しする改革論を主張した。しかし、郷村内の耆老・紳耆は、伝統的な宗族活動の改革は「道徳」を疎かにするものであるとして反対する。郷村における地方自治論は、それまで郷村の秩序を保ってきた宗族組織の維持をめぐる対立の上に展開された。これに対して陳炯明政権は、嘗産や私塾の改良の政策を通じて、宗族組織の中で耆老や紳耆が得てきた特権を否定し、結果として青年らの主張を擁護する政策をとっていった。ただ、青年らの宗族改革論は宗族そのものを否定するものではなく、あくまで宗族組織の維持を前提とした上で地方自治の実施を主張したのであった。 2、「大元帥府・広州国民政府期における農民運動の実態」に関する研究 第一次国共合作によって共産党員・社会主義青年団が中心となり展開した広東農民運動は、中国革命史の視点から、地主に対抗する農民協会の革命的意義に関心が集まり、同時期に郷村の自衛組織であった民団を地主集団として否定的にとらえてきたきらいがある。しかし、広東郷村社会の特異性である宗族結合を動態的にとらえようとする場合には、宗族を基盤とする自衛組織を継承していた民団の構造や性格にこそ着目すべきであろう。そこでまず、広東当局による民団政策を明らかにし、その上で、民団組織と宗族結合との関係を分析することを通じて、同時期の郷村社会の構造について以下のような見解を得た。広東当局の民団政策は、郷民による自立性と県長による監督という従属性を有した「県区郷団局章程」に基づき、県・区・郷村に民団を設置する形で進められた。県レベルでは県長による積極的な民団設立の動きが見られたが、郷村レベルでは郷村単位ではなく宗族を基盤とした民団が数多く設立され、政権の意向とは異なる形で展開された。こうした齟語は、公権力の郷村への拡大を図る県長とそれに対抗する宗族とのはざまで、区レベルの民団の主導権をめぐる対立として現れた。郷村自衛の政策として計画された民団は、宗族結合が強固な珠江デルタ地域では、宗族を維持するものとして受け入れられたのである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は海外での調査において、十分な収集を行うことができ、さらにそれを利用して、いくつかの学会・研究会において報告を行うなど、一定の成果をあげることができたと考える。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度はアウトプットを中心に行いたい。本年度に学会・研究会で行った研究報告を踏まえ、さらに推敲を加え、学術雑誌への投稿を積極的に行って行きたい。まずは、「9.研究実績」(2)「大元帥府・広州国民政府期における農民運動の実態」の論文作成、投稿から始める。その上で、明らかになった問題点をすでに収集した史料を利用して、さらに論文を作成し、1910年代、20年代の広東地域社会の特性を明らかにしていく。
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