2011 Fiscal Year Annual Research Report
現代台湾における歴史叙述 : 中華民国と泰緬孤軍とを架橋する中華救助総会に即して
Project/Area Number |
11J01368
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
若松 大祐 京都大学, 大学院・アジア・アフリカ地域研究研究科, 特別研究員(PD)
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Keywords | 冷戦 / 国共内戦 / タイ / 華僑・華人 / 難民 / 移民 / 異城 / 飛び地 |
Research Abstract |
第二次大戦後、現在まで、中華救助総会(「救総」、台北)はどのように歴史を叙述してきたのか。本研究の目的はこの問いを解明し、現代台湾への理解を深めることに在る。近年の台湾にはナショナル・ヒストリーを、相対化しようとするグローバルな動向と、再構築しようとするナショナルなまたはローカルな動向とが併存しており、ここに現代台湾の特徴や苦悩がある。救総は、泰緬孤軍やその末喬を1950年から現在まで支援してきた政府外郭団体であり、まさに中華民国(台湾)と泰緬孤軍(北タイ)とを繋いできた。時が経つにつれ、中華民国と泰緬孤軍とは別々に「我々の歴史」を描き、両者の差が年々広がり、泰緬孤軍は忘却されつつある。この状況で救総はどのように両者を架橋し、両者ともにひとまず納得できそうな「我々の歴史」を提示してきたのか。 主な研究対象は、国家(中華民国)、泰緬孤軍、救総の三者が1949年から現在までに展開した歴年の歴史叙述の諸相である。資料読解や関係者訪問を通じて、一年目は中華民国の、二年目は泰緬孤軍の、三年目は救総の歴史叙述を考察する。今年度は、官製歴史叙述の中で泰緬孤軍が持つ意味を特に考察し、次の2点が明らかになった。すなわち、官製歴史叙述の半世紀にわたる変遷を背景として踏まえると、(1)そもそも泰緬孤軍という概念は、台湾が20世紀の後半を歩む中で形成したイメージであること、(2)官製歴史叙述が宣揚する理念と泰緬孤軍が持つ理念とは、前者が後者の内容を決定したにもかかわらず、実は微妙にズレること。かかる成果を公表すべく、「現代台湾史における官製ナショナリズムと泰緬孤軍イメージ」と題する論文を執筆し、近々投稿の予定である。 受入機関の京都大学で東南アジア地域研究に関する研究会や講義へ積極的に参加し、また北タイや台北へ2回ずつ短期出張して、今年度の研究の適切な遂行ができ、翌年度以降の研究計画の準備ができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
「研究実績の概要」で既述したように、本研究は三分できる。一年目は中華民国の、二年目は泰緬孤軍の、三年目は救総の歴史叙述を考察する。初年度の計画をほぼ予定通り実施した。現在その成果を論文にまとめており、近いうちに学術雑誌へ投稿する予定である。そこで、本研究の達成度を「おおむね順調に進展している」というふうに自己評価した。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度に取り組む「泰緬孤軍による歴史叙述」は、特に多種多様である。代表例をどのよう,に特定するのかが問題点として挙がる。本来は様々な背景や思惑を持ち北タイに住む華人が、台湾側ではなぜかあたかも一枚岩のような存在として理解されている。そこで、本研究は台湾との関係を重視する北タイの華人へ注目することによって、「泰緬孤軍による歴史叙述」の代表例を特定していきたい。「国家による歴史叙述」や「救総による歴史叙述」に比べて、「泰緬孤軍による歴史叙述」は文字資料が極めて少ない上に、しかも北タイと台湾に分散している。そこで、資料収集に際しての事前の周到な準備が必要になる。
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Research Products
(7 results)