2012 Fiscal Year Annual Research Report
現代台湾における歴史叙述:中華民国と泰緬孤軍とを架橋する中華救助総会に即して
Project/Area Number |
11J01368
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
若松 大祐 京都大学, アジア・アフリカ地域研究研究科, 特別研究員(PD)
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Keywords | 歴史叙述 / 泰緬孤軍 / 中国内戦 / タイ内戦 / 中国国民党 / 軍事難民 / 戦没者追悼施設 / 忠烈祠 |
Research Abstract |
「我々」(国民国家的な主体)を想定し、歴史を書くことは、現代台湾において学問のみならず、現実政治の実存的な課題となっている。中華救助総会はどのように中華民国と泰緬孤軍とを架橋し、両者ともにひとまず納得できそうな「我々の歴史」を提示してきたのか。 二年目の今年度は、現代台湾史上の官製歴史叙述を背景として踏まえた上で、特に泰緬孤軍が展開する歴史叙述について考察し、次の2点が明らかになった。すなわち、官製歴史叙述の半世紀にわたる変遷を背景として踏まえると、第1に、そもそも泰緬孤軍という概念は、タイやビルマでの実態のいかんにかかわらず、現代台湾で確かに成立しているイメージであること。第2に、中華民国国軍(国民党軍)の泰緬地域での活動をめぐり、同じく中華民国の影響下にある戦没者追悼施設が、台湾(国家側)では主に1950-1961年の戦没者を祀り、タイ(泰緬孤軍側)では主に1961-1981年の戦没者を祀っていたこと、の2点である。第2点目のキーワードになる1961年こそは、中華民国が自国の軍隊を秘密裏に泰緬地域に配置し続けているにもかかわらず、内外に向けて自国の軍隊がもはや泰緬地域に存在しないと公言した年であった。 第1点目についてはかかる見解を公表すべく、「現代台湾史における泰緬孤軍イメージ」と題する論文を、近々投稿の予定である。第2点についても更なる考察を踏まえ、投稿を前提にした論文を執筆中である。 受入機関の京都大学で東南アジア地域研究に関する研究会や講義へ積極的に参加し、またタイへ1回、台湾へ3回短期出張して、今年度の研究の適切な遂行ができ、翌年度以降の研究計画の準備ができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度の「研究実績の概要」で既述したように、本研究は三分できる。一年目は中華民国の、二年目は泰緬孤軍の、三年目は救総の歴史叙述を考察する。二年目の計画をほぼ予定通り実施した。ただし時間切れになった憾みは残っている。現在その成果を論文にまとめており、近いうちに学術雑誌へ投稿する予定である。そこで、本研究の達成度を「おおむね順調に進展している」というふうに自己評価した。
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Strategy for Future Research Activity |
翌年度(三年目)に取り組む「救助総会による歴史叙述」は、学界にとっても未開拓分野であり、資料の選定や把握が重要になる。多くの資料が整理中や未公開の状態にある。そこで、本研究は救助総会が公刊した文献資料を整理し講読することによって、「救助総会による歴史叙述」の主軸を特定していきたい。本研究において「救総による歴史叙述」は「国家による歴史叙述」と「泰緬孤軍による歴史叙述」を架橋するものであるから、適切なキーワードの把握と資料の精査が必要になる。
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Research Products
(6 results)