2011 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
11J01500
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
古川 真宏 京都大学, 人間・環境学研究科, 特別研究員(DC1)
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Keywords | 装飾 / セクシュアリティ / モード / ウィーン分離派 / アドルフ・ロース / 精神分析 / フェティシズム / ヘルマン・バール |
Research Abstract |
本年度は、1次資料の読解と先行研究の収集・精読を通じて、芸術と精神医学をつなぐカギとなる言説や芸術作品、あるいは出来事を把握することに重点を置いて研究を行った。そのなかで浮かび上がってきた主題として主に以下の3つが挙げられる。(1)まず、当時の芸術における主要なテーマであり、芸術と精神医学の結節点として注目されるべき「装飾」については、ウィーン分離派と建築家アドルフ・ロースの場合を取り上げて考察を深めた。その成果については、2011年7月3日に京都大学で催された表象文化論学会第6回大会において、「ヒステリーと装飾-世紀末ウィーンにおける欲望の表象」という題目で口頭発表を行った。(2)また、そこで問題となった当時のセクシュアリティ観を当時のファッションに延長し、分離派やウィーン工房による衣服のデザインやモード論に関する調査を行った。世紀転換期のヨーロッパにおいてモード(ファッション=流行)という社会・文化現象に対する問題意識は表面化していったが、ウィーンの芸術家やデザイナーが流行現象や流行概念の形成にいかなる役割を果たしたかについてはいまだ明らかになっていない部分が多い。その基本的な情報を得るために、ウィーンとブリュッセルに研究旅行に赴き、資料収集と現地調査を行った。そこで得た情報を、当時の社会学者、心理学者、美学者、精神医学者らによるモード論と比較することを通じて、世紀転換期のモードの特質について考察を行った。(3)またこれらの研究のなかで、精神分析から文学や絵画などを横断して見られる「幼女 (Kindmaedchen/Weibkind)」という特異な女性像が浮かび上がってきた。そこでアルテンベルクの文学やクリムトおよびシーレの絵画を中心にこの女性類型の表象について考察した。本年度の研究は以上のように、セクシュアリティの観点から進めた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
芸術と精神医学の関係を考える上で重要ないくつかの主題を発見し、考察を深めることができた。その一つである「装飾」については、学会で口頭発表を行い好評を得た。今年度は、今後の研究の進展のための基礎を固めるとともに、その成果の一部を発表する機会を設けることできたため、研究は順調に進展していると評価できる。
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Strategy for Future Research Activity |
23年度に着手していた2つの主題、すなわち「世紀末ウィーンにおけるモード」と「幼女という女性像」について、さらに調査・分析を進めて論文を発表する。また、当時の芸術家の自画像に散見される「狂人」としての自己表象について、なぜこのような自画像が成立しえたのかを、作者本人の意図だけではなく、当時の文化・社会や精神医学における「狂人」の位置づけやマーケティングといった外的要因の観点からも考察を深める。芸術家自身の言説や同時代人の反応を検討するために、オーストリア国立図書館へ調査旅行に赴き、雑誌などに掲載された一次資料の収集・読解を行う。それらに並行して、フロイトやビンスヴァンガー、プリンツホルンなどの医学者の著作を講読し、精神医学における概念や分析手法を相対的に捉え、芸術的な実践と比較検討する。
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Research Products
(1 results)