2011 Fiscal Year Annual Research Report
ゲーテと「理性の他者」―身体・情感・自然をめぐる近代批判論の現象学的再考
Project/Area Number |
11J01660
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
久山 雄甫 京都大学, 人間・環境学研究科, 特別研究員(DC2)
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Keywords | ゲーテ / 現象学 / 異文化交流 / ガイスト |
Research Abstract |
今年度は、以下の三点についての研究活動に取り組んだ。まず第一点目はゲーテ研究であり、ゲーテ研究の最高峰をほこる国際雑誌『ゲーテ年鑑』に研究の成果を反映させた論文を投稿して受理された(論文掲載号は2013年6月発行予定)。また「ゲーテ自然科学の集い」において二度の研究発表を行い「ゲーテと理性の他者」をめぐる問題に多くの切り口から挑んだ。二つの発表において中心をなした問題は、いずれも、ゲーテと新プラトン主義およびモナド論との関わりに見られる「ガイストGeist」概念の位置である。ドイツ語のGeistは、日本語には「精神」や「霊」などと訳されるが、その内実、あるいは肉体と魂とガイストの関係性などは、18世紀ドイツ思想においても錯綜しており、今後の研究が待たれている。私の発表では、ヘムスターホイス、ヘルダー、そしてライプニッツにおける肉体と魂とガイストの関係性を取り上げた。これらの発表原稿は、来年度以降、論文として学会誌に投稿する予定である。夏季休暇中は、タイと韓国での学会に参加し、くわえて「ゲーテ自然科学の集い」の学会誌である『モルフォロギア』の編集委員として論文審査にあたった。さらに、国際哲学論文コンクールで次席に選ばれ、副賞としてドイツ哲学会の全国大会に招待された。11月にはドイツのダルムシュタットからゲルノート・ベーメ教授が来日され「ゲーテと近代文明」という題で講演されたが、私はその講演原稿の全訳を作成し、また当日はコメンテーターとしてディスカッションに参加した。研究活動の第二点目は現象学研究であり、すでに完成していた論文をもとにしてドイツで単著を出版した。8月にヘルマン・シュミッツ教授、11月にゲルノート・ベーメ教授がドイツから来日された折には講演の通訳やコメンテーターを務め、また両教授との綿密な議論を通じて、ドイツ・ダルムシュタット大学に提出するために準備中の博士論文について有益な示唆を得た。第三点目として、これは当初の研究計画には盛り込まれていなかったものであるが、立命館大学で開催された「異文化交流国際独文学会」京都大会の事務局長をつとめた。世界各国から60名をこえる参加者を集めた大会は盛会に終わり、綿密な大会運営は各方面から賞賛された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
『ゲーテ年鑑』への論文掲載決定、またドイツでの初の単著の出版は当初の計画以上の成果であった。『ゲーテ年鑑』に受理された論文は東日本大震災の被害を念頭に書かれたもので、当初の計画には必ずしも含まれていなかった問題意識を出発点とするものであった。また、ゲーテ研究を推進する際に「ガイスト」をめぐる問題の重要性を明らかにできたことも大きな成果であった。年度の後半は「異文化交流国際独文学会」京都大会の事務局長の仕事に忙殺され十分な研究活動ができなかった。ただしこの大会運営を通じて貴重な経験、各国の研究者とのコンタクトを得ることができた。なお、『形態学誌』訳業の完成は共訳者の都合のため来年度以降にもちこされた。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度は、昨年度に十分には遂行できなかった「ゲーテと身体」というテーマを、同時代に見られる「魂」概念および「ガイスト」概念との関連から精査する。18世紀ドイツの思想界における「ガイスト」概念の変遷を、ゲーテ思想を中心にして重点的に検討する。その成果の一部を日本独文学会の秋季大会で発表する予定である。同時にドイツ・ダルムシュタット工科大学に提出予定の博士論文を完成させ、口頭試問を受けて博士号を取得する。
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