2011 Fiscal Year Annual Research Report
混合金属クラスターを構造基盤とした新規アトロプ不斉空間の構築と分子メモリへの展開
Project/Area Number |
11J01675
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
池上 篤志 九州大学, 大学院・工学研究院, 特別研究員(DC1)
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Keywords | 多核錯体 / レドックス活性 / フェロセン / 混合原子価状態 / 長距離ホール移動 / 電子的相互作用 / 静電的相互作用 |
Research Abstract |
MgイオンとRuイオンから成る三核錯体にフェロセニル基を集積化させた混合金属クラスターの合成、構造解析および電気化学測定の検討を行った。4つのフェロセニル基を修飾した混合金属クラスターは、X線結晶構造解析の結果により、多点の水素結合による二量体構造を形成していることを初めて明らかにした。この二量体は、中心に位置している8つのフェロセニル基を、三核錯体の骨格の一部であるRu_2Oユニットが両端から挟み込み、酸化還元活性なフェロセンとRu_2Oユニットが層状に重なり合うような構造である。興味深いことに、この新奇な二量体構造は溶液中においてもその構造を維持していることが、温度可変^1H NMRや二次元^1H NMRの一種であるDOSY測定により示された。合成した化合物の電気化学的性質をサイクリックボルタンメトリー(CV)などによって評価したところ、二量体構造に由来する酸化還元波が見られ、分子間での混合原子価状態を観測することに成功した。二量体構造の両端にあるRu_2Oユニットは、それらの間に集積化されたフェロセニル基をホール移動のメディエーターとすることで、離れた位置においても相互作用が働く。このフェロセニル基を介したRu_2Oユニット間の相互作用は、二量体構造を解離させていくと徐々に小さくなっていくことや、フェロセニル基を持たない三核錯体の二量体構造においては観測されないことからも支持されている。CV測定で見られた酸化ピークは電解スペクトル測定によって帰属を行なっており、Ru_2Oユニットとフェロセン間の電荷移動に伴う吸収が見られた。従来の相互作用伝達系では不飽和結合や配位結合といった酸化還元中心間の結合を必要としていたが、今回の発見は酸化還元活性基を適切な位置に配置することで長距離間の相互作用伝達が可能となるため、新たな相互作用系の構築法として利用できる意義深い結果である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
今年度の実験計画の1つであった結晶構造解析に成功し、水素結合による二量体構造の形成が明らかとなった。この構造体は当初予想していなかったものであるが、電気化学測定において二量体に由来した特異的な酸化還元挙動が見られるなど、当初の実験計画にはない新たな知見が多く得られた。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度の研究で得られた知見は、混合原子価化合物における新しい相互作用の形態として非常に興味深い結果である。この相互作用の機構解明に向けて、化合物の配位子を変えることで酸化還元電位を調整しながら、さらなる電気化学的性質を明らかにすることが重要である。そのためには、Ruイオンのターミナル配位子を変えた錯体を薪規に合成し、サイクリックボルタンメトリーによって評価する。また、酸化状態での化合物の電子状態に関する知見を得るために、計算化学による考察が必要であると考えられる。
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