2012 Fiscal Year Annual Research Report
混合金属クラスターを構造基盤とした新規アトロプ不斉空間の構築と分子メモリへの展開
Project/Area Number |
11J01675
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
池上 篤志 九州大学, 大学院・工学研究院, 特別研究員(DC1)
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Keywords | 多核錯体 / 混合原子価状態 / メタロセン / 水素結合 / 二量体構造 / 電子的相互作用 / 静電的相互作用 |
Research Abstract |
私は、昨年度までにMgイオンとRuイオンから成る三核錯体が、多点の水素結合によって二量体構造を形成することを明らかにしてきた。この二量体構造の両端に位置する2つのRu_2Oユニットは、間に存在するフェロセニル基を介した相互作用によって混合原子価状態を発現する。本年度は、酸化還元活性基を介した相互作用についてより詳細な知見を得るために、3つのアプローチによって実験を行った。 1つ目は、フェロセニル基を他のメタロセンであるルテノセンに変えた化合物の合成および電気化学評価を行った。ルテノセンを集積化させた化合物はX線結晶構造解析より、フェロセニル基集積体と同様に二量体構造を形成していることが明らかとなった。化合物のサイクリックボルタモグラムを測定すると、Ru_2Oユニット間の混合原子価状態が観測され、ルテノセンにもフェロセン同様の相互作用を伝達する役割が示された。 2つ目は、Ruイオンのターミナル配位子をpKaが異なる様々ピリジン誘導体に変えた化合物を合成し、相互作用に与える影響について調べた。配位子にトリフルオロメチルピリジンを用いた化合物では、結晶構造中に二量体の形成が確認された。化合物のサイクリックボルタンメトリーでは、配位子の電子供与性を反映したピークのシフトが見られた。配位子の電子供与性とRu_2Oユニット間の相互作用の大きさに相関は見られなかったが、配位子の種類に依らず混合原子価状態が発現することを明らかにした。 3つ目は、酸化剤によって化学的に酸化させた化合物の構造について調べた。ヨウ素によって2電子酸化されたフェロセニル基集積体においても、結晶中で二量体構造が見られた。Ru_2Oユニットの正電荷による静電反発が想定されるにも関わらず、二量体の形成が確認されたことから、水素結合が多点で働くことで、より強い結合となっていると考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
今年度の実験計画としていた、ルテノセン集積型多核錯体の合成とRuイオンのターミナル配位子を変えた錯体の合成に成功した。特にX線結晶構造解析による構造決定では、様々な化合物において二量体構造の形成を確認することができた。錯体を酸化した状態においても二量体の構造を維持している様子は驚くべき結果であり、多点で働く水素結合の強さを今回明らかにした。
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Strategy for Future Research Activity |
メタロセンを介した相互作用について、混合原子価状態にある化合物の物性評価を行なっていく。具体的には電解スペクトル測定により電荷移動に伴う吸収スペクトルの観測や、酸化剤の当量数を制御することによる化合物の単離・構造解析を目指す。また、ルテノセン集積体については、ルテノセンの酸化に伴う分子間の結合形成が報告されているため、二量体のユニット間で新たな結合の形成が考えられる。水素結合に加え、メタロセン間の結合による二量体構造の構築と、電気化学特性の解明を検討する。
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