2011 Fiscal Year Annual Research Report
先史社会における定住と交易の意義―先史時代西アジアのビーズを素材として―
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11J01689
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
増森 海笑ダモンテ 筑波大学, 大学院・人文社会科学研究科, 特別研究員(DC1)
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Keywords | 交易 / 定住 / 新石器時代 / 装身具 / シリア:トルコ / 埋葬儀礼 / アイデンティティ / 先史考古学 |
Research Abstract |
平成23年度に申請者はまず西アジアの新石器時代における装身具利用の全体像を把握する必要があると考え、装身具の製作技術・素材・利用形態という3つの属性から装身具のあり方を概観することをまずはじめに行った。その大きな装身具利用展開の流れの中に、自身が発掘調査に参加した遺跡であるテル・エル・ケルク遺跡出土資料の資料の位置付けを行ったのが、日本西アジア考古学会で発表した論考である。このような巨視的な視座から装身具のあり方をまとめた研究はこれまでに類を見ない。分析の結果、社会の経済状況の変化を反映するかのように装身具利用のあり方にも変化が生じていることが分かった。すなわち、生業が不安定な時期には利用者を生者に限定していた装身具が、生業が安定してくるにしたがって死者をディスプレイするためにも利用されるようになったことが明らかになったのである。この成果は装身具という定点から長い時間幅をとって対象を観察したからこそ得られたものであると考えている。 そのあとも、装身具利用のあり方が社会の構造変動とともに移り変わることをいくつかの事例で確認した申請者は、続く論文では埋葬人骨の遺跡内分布と装身具を併せて分析することによって、社会ごとに生者と死者の距離が著しく異なっていたことを明らかにした。 夏期には、研究実施計画ではシリアに赴いて発掘調査に従事する予定を立てていたが情勢不安により調査が中止になったため、この機会を利用する形でトルコ共和国南東部に位置するハサンケイフ遺跡の発掘調査に参加した。この遺跡は定住がはじまって間もない新石器時代初頭に利用されていた遺跡であり、多くの装身具のほかに十数体の埋葬人骨が出土している。この遺跡を対象とした分析は端緒についたばかりであるが、社会の複雑な展開のなかに装身具利用を位置づけるうえで重要な情報を提供するものと期待できる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成23年度には学会発表1本のほかに論文を2本発表したものの、それらは本来の定住性と交易というテーマに直接迫るものではなく、これから研究を進めていくうえでの基盤を構築するためのものであった。フィールドワークや資料渉猟を通して装身具研究のもつ射程の広さを再確認でき、自身の研究の方向性が見えてきたので、その経験を活かして今後の研究に繋げること企図している。
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Strategy for Future Research Activity |
平成23年度の研究活動によって、日本国内で行うことのできる資料渉猟はほぼ完了した。したがって24年度はこれまで培った視点や考え方を基盤とし、実際の資料や現場に触れるべき期間であると捉えている。申請者はこのような考えのもとに1年間の海外調査を計画している。調査先は西アジア新石器時代研究が非常に盛んなイスタンブル大学である。ここは多くの情報や人材や資料が集まる場であり、イスタンブルには欧州諸国の研究機関もあることから、ここで経験を積むことで今後の研究がさらに加速することが大いに期待される。アナトリア産の石材に関する情報も多大な蓄積があり、装身具の原産地といった視点からも分析が可能となり、当時の交易の実態にも迫ることができるようになるであろう。
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