2012 Fiscal Year Annual Research Report
後期社会主義時代のロシアにおける科学的無神論とロシア正教についての総合的研究
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11J01699
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
高橋 沙奈美 筑波大学, 人文社会系, 特別研究員(PD)
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Keywords | ロシア正教会 / 科学的無神論 / ラトヴィア / オーラル・ヒストリー / 聖地 / 宗教文化財 |
Research Abstract |
(1)調査及び資料収集 2012年6月下旬にラトヴィア・ダウガフピルス大学のオーラルヒストリー・センターが行ったフィールドワークに1週間参加した。さらに、リガにおいて古儀式派のコミュニティーに対して聞き取り調査を個人的に行った。ダウガフピリス大学では、トランスクリプトされたオーラルヒストリー史料を122件入手し、これについて分析中である。 2012年7月及び13年1月から2月にかけてのラトヴィア国立アーカイヴでの史料収集では、宗教問題評議会のフォンドを中心に調査し、ルター派とカトリックを多数抱えるラトヴィアが、ソ連政府が戦後支援したエキュメニカル運動に重要な役割を果たしたことを明らかにする文書をいくつか発見した。 2012年11月のサンクト・ペテルブルグ国立文学芸術中央アーカイヴでは、国立宗教・無神論史博物館の60-80年代に関する活動および、同博物館の前身の中央反宗教博物館に関する文書を中心に調査した。また、ロシア・ナショナル図書館において、社会主義的新儀礼についての同時代の文献、エキュメニカル運動に関する報告集、宗教学・無神論学の発展に関する先行研究を参照した。 (2)成果報告 2011年に提出した博士論文に基づいて、2本の査読論文を投稿することができた。これは、博士論文を基にした単著出版に向けての重要な布石となる。 また、オーラルヒストリー分析に関する学会報告を3回行ったが、この議論を整理する中で、無神論の宣伝や実施を担った主体、また宗教組織に実際に関わった人々の様々な宗教実践の実態について、4つの類型化を試みることができた。これについては、今後さらなる分析を通じて、論証を高めたいと考えている。報告での議論を通じて、ラトヴィアの社会的特性についての理解を深めつつあり、将来査読論文としてまとめる際に、本研究がラトヴィアにおけるソ連体制と宗教問題について、人々の記憶という切り口から重要な示唆を与えることができることを期待できる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2012年6月下旬から7月上旬にかけてラトヴィアにおいて、予定通りフィールドワークに参加し、国立文書間においてソ連時代の宗教政策およびエキュメニカル運動に関する史料収集を行った。 また、10月のロシア文学会および、2013年1月のダウガフピルスの学会、3月のヨーロッパ地域問題研究会でオーラルヒストリー分析の結果について成果報告を行った。報告での討論を通して、この問題に関する知見を深めることができた。 11月のサンクト・ペテルブルグにおける報告では、ソ連における宗教・無神論研究の歴史について発表し、さらに宗教・無神論史博物館に関する貴重な史料を収集することができた。
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Strategy for Future Research Activity |
ダウガフピルスで収集したオーラルヒストリー史料の読み込みを完了し、学芸員や学校教員など、ソヴィエト無神論を積極的に担った主体の回想を重点的に分析する。その一方で、ラトヴィアにおける教会組織とソ連体制の関わりについて、エキュメニカル運動を中心に考察を進める。 また、プスコフ・ペチョールスキー修道院・博物館関連の史料について、プスコフ州アーカイヴ保存の宗教問題評議会と党のプロパガンダ部門のフォンドを中心に収集する。 今後の調査対象地域がラトヴィアとプスコフに絞られるため、第二次大戦中のドイツ占領地域という両地域の歴史的特性を考慮に入れつつ、これらの地域の「聖」性理解、宗教実践についての記憶、無神論の宣伝・実施状況について考察を加える。
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