2011 Fiscal Year Annual Research Report
σ及びπ共役系をスペーサーとする高周期14族ラジカルの合成と物性
Project/Area Number |
11J01746
|
Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
野澤 竹志 筑波大学, 大学院・数理物質科学研究科, 特別研究員(DC1)
|
Keywords | 有機ケイ素化学 / シリルラジカル / オリゴラジカル / 高スピン化学種 / オリゴシラン / π共役 / σ共役 |
Research Abstract |
最近我々は2つのケイ素ラジカルを一般的なπスペーサーであるベンゼン環のp-位及びm-位に集積させたビス(シリルラジカル)の合成及び単離に成功し、パラ体が基底一重項のキノイド構造を持つ一方メタ体が高スピン基底三重項状態を持つことを明らかにした。本年度は、更なる基底多重度の増大を目的とし、ベンゼン環の1,3,5-位で3つのシリルラジカル中心を連結したトリス(シリルラジカル)の合成、及びX線結晶構造解析に成功した。さらにEPRスペクトルの詳細な検討により、このトリラジカルが基底四重項種であることが分かり、ベンゼン環の1,3,5-位に位置する3つのシリルラジカル間に強磁性的相互作用が働くことを明らかにした。これらの結果は、古くから盛んに研究が行われている第二周期元素を基盤とする高スピン分子の設計と同様の戦略により、高周期元素を基盤とする高スピン分子の設計が可能であることを示しており、新たな高スピン分子の創製に貢献するものである。 さらに、ベンゼン環の代わりにジシラン鎖を連結子としたケイ素ビラジカル種の合成も検討した。オリゴシラン鎖はπ共役系に類似して、電子がσ結合に沿って非局在化するσ共役を発現することが知られているためそのようなσ共役系を介したスピン間相互作用に興味が持たれる。現在までに、そのようなケイ素ビラジカル種の合成に成功し、EPRスペクトルにより基底三重項分子であることを明らかにした。古くから様々な有機ラジカル集積分子が報告されているが、σ共役系をスペーサーとした報告例はなく、今回の結果は有機ケイ素化学において基礎化学的に重要な知見を与えるだけにとどまらず、有機磁性体開発におけるスペーサーとして新たにσ共役系を用いることが可能であることを示している。現在は、引き続き構造や反応性について検討を行っている。 以上本年度の我々の研究結果は、有機磁性体開発において重要となるスピン中心元素及び連結子のどちらにも高周期元素を用いることができることを示したため、全く新しい有機磁性材料の創成に貢献する非常に重要な成果であると考えられる。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究ではπ及びσ共役系により連結した高周期14族元素ラジカル間の相互作用を明らかにすることを目的としているが、π共役系についてはベンゼン環で3つのケイ素ラジカル中心を連結した基底四重項のトリラジカル種まで、合成単離することに成功している。もうひとつの大きなテーマであるσ共役系により連結されたビスシリルラジカルについても既に合成に成功し、基底三重項の高スピン化学種であることを明らかにしている。本研究に必要な合成手法及び評価法を確立することができたため、今後はさらなる発展を目指し研究を続ける。
|
Strategy for Future Research Activity |
本年度はσ共役系としてジシラン鎖で2つのケイ素ラジカル中心を連結したビラジカル種が基底三重項状態を持つことを明らかにしたが、今後はその構造や反応性について詳細に検討していく。X線結晶構造解析を用いて、シリルラジカル中心とオリゴシラン鎖との相互作用により連結オリゴシラン鎖の結合長がどの用に変化するか調べることで、スピン伝達に関する知見を得る。また逆に、オリゴシラン鎖のコンフォーメーションや鎖長の変化がラジカル間相互作用与える影響について調べる。
|
Research Products
(7 results)