2011 Fiscal Year Annual Research Report
石器消費からみた農耕社会展開過程の考古学的研究―北部九州と韓半島を素材として―
Project/Area Number |
11J02191
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
森 貴教 九州大学, 人文科学研究院, 特別研究員(DC2)
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Keywords | 弥生時代 / 北部九州 / 青銅器時代 / 初期鉄器時代 / 石器消費 / 石材産地 / 分業 / 鉄器化 |
Research Abstract |
本研究の目的は、農耕社会(北部九州弥生時代、韓半島青銅器・初期鉄器時代)における石器の流通・消費の変遷を社会システムの一端として明らかにすることである。以下、本年度の研究活動の内容を記述する。 1、木工用石斧である片刃石斧について北部九州地域と韓半島南部の資料を悉皆的に集成した。形態、法量、製作技術に関する検討を踏まえ、弥生時代前期末から中期前半において九州島「外部」から完成品として流通していた可能性が高いことを明らかにした。論文で用いたデータのうち主要な資料については、直接所蔵機関に赴いて実見調査を行った(小郡市埋蔵文化財調査センターなど)。内容は雑誌論文として平成24年度初めに投稿を予定している。 2、本年度は口頭発表を中心に研究を展開した。第97回東アジア考古学会例会では、「扁平片刃石斧の系統性と画期」と題して、弥生時代北部九州地域に流通する片刃石斧について、韓半島南部を含めた製作技術の系統性の観点から検討した。第60回埋蔵文化財研究会では「北部九州における弥生時代の石器流通」と題して、北部九州の弥生時代における石器流通とその変遷過程について総合的にモデル化した。 3、壱岐市カラカミ遺跡の発掘調査(2011年9月)および出土石器類の整理・報告、分析に主体的に参画した。敲石や台石、砥石などの鍛冶関係石器について顕微鏡(エニティ社ワイヤレスデジタル顕微鏡 3R-WM401PC)を用いて観察した。分析・考察は報告書の刊行(平成24年度末)に合わせて投稿を予定している。 4、弥生時代中期後半を中心に飯塚市立岩遺跡群で生産された石庖丁(いわゆる立岩系石庖丁)を集成した。なかでも福岡県立嘉穂高校所蔵の考古資料について、所蔵状況の把握と整理、写真撮影、実測調査を行ったことは特筆される。資料紹介として雑誌への投稿を予定している。 以上のように、本年度は弥生時代北部九州を中心とした石器流通・消費システムとその変遷について研究を深め、研究目標を概ねみたすことができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の対象地域のうち北部九州地域の弥生時代の石器流通・消費に関しては、当該期における代表的な器種である伐採用石斧(両刃石斧)、木材加工用石斧(片刃石斧)、穂摘具(石庖丁)の基礎的データの収集がほぼ終了し、総合的な考察が可能な状況にある。一方、比較対象地域である韓半島南部の青銅器時代・初期鉄器時代の資料に関しては、データは収集しているものの、直接所蔵機関に赴いて観察を行う実見調査が不十分といえる。
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Strategy for Future Research Activity |
まず、平成23年度に行った研究成果を学術雑誌に投稿する。特に、弥生時代北部九州地域の木材加工用石斧(片刃石斧)の流通に関してはいくつかの学会において既に口頭発表しているため、その発表内容をもとに論文を執筆する(平成24年度初めに投稿予定)。また、時間の都合上、実見調査が不十分であった韓半島南部の青銅器時代・初期鉄器時代の石器資料について直接所蔵機関に赴いて資料調査を行い、北部九州地域との地域間比較の有効な材料とする。さらに、九州大学大学院人文科学研究院考古学研究室が継続的に調査を行っているカラカミ遺跡を主要な対象として、鍛冶関係石器の分析を継続的に行い、弥生時代における利器の材質転換(鉄器化)と石器流通・消費システムの変容について考察する。考察に際しては、農耕社会の展開と石器生産・流通などの経済的側面の関係、利器の材質転換(鉄器化)と鍛冶技術の導入などに関する研究事例を、国内・海外問わず広く摂取して行う。
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