2011 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
11J02249
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
西本 希呼 京都大学, アジア・アフリカ地域研究研究科, 特別研究員(PD)
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Keywords | オーストロネシア語族 / ポリネシア / 記述言語学 / 動詞形態論 / 科学社会学 / 植物・自然利用 / 数 |
Research Abstract |
報告者は、大学院博士課程在籍時から継続して、マダガスカル語の諸方言を中心としたオーストロネシア諸語の言語研究に携わっている。2011年度から、新たに、ポリネシア地域へと視野を向け、調査・研究対象を広げる運びとなった。仏領ポリネシアのソシエテ諸島に位置するタヒチ島、オーストラル諸島に位置するルルツ島およびチリ領ラパヌイ島(イースター島)へそれぞれ3か月ずつの現地調査に赴いた。マダガスカル語、タヒチ語、ルルツ語、ラパヌイ語は、オーストロネシア語族の中でも、西部マレー・ポリネシア語群(マダガスカル語)、オセアニア諸語東部ポリネシア語群(タヒチ語、ルルツ語、ラパヌイ語)と、下位分類が異なる。そのうち、ルルツ語・タヒチ語およびラパヌイ語は東部ポリネシア語群の中でもポリネシア祖語からの分離がもっとも最近であるとされている言語である。 本研究の主な目的は、言語調査を基盤とした、オーストロネシア語圏における、比較言語学的研究および、同地域間の固有の植物や天体運動や季節の推移などの自然認識や自然資源利用の体系を明らかにしていくことである。 研究題目にある『数学』について報告者の見解を明らかにしておく必要がある。『数学』とは、混沌とした現象の中に法則を見つけ出す営みであり、数学を支える世界観は、その時代や地域における自然科学の知識をもとに形成される。また、科学は、人間が試行錯誤を繰り返し手探りながらも創造してきたものであるが、その科学の根源をなす数学概念は、地域社会ごとに、現代の人間にとって欠かすことのできない普遍的で深い思想や世界観を備えている。そして、言語は、抽象的な数学的概念を記号によって表わすことにより数を構造化する機能をもつ。 オーストロネシア語圏において言語学的側面のみならず、数学とその根底にある社会に着目した応用研究へと至ることを、長期的な目標としている。 本年度は、ポリネシア地域へと、新たに調査地を拡大し、特にオーストラル諸島のルルツ島のルルツ語の調査は、基礎語彙のほか、数詞、派生語、形容詞・動詞の重複形、人称代名詞の数体系など、第1回目の現地調査としては十分に充実した調査を行うことができた。チリ領ラパヌイ島(イースター島)では、インフォーマントが植物学が専門であることから、植物や自然の人間との共存について、詳しい資料をえることができた。2011年度のポリネシアでの学術調査の成果の一部は、2012年インドネシアで開催される、国際オーストロネシア言語学会で発表を行う。また、2011年12月末から2012年3月末の約3カ月間は、フランス国立東洋言語文化研究所に客員研究員として滞在し、付属図書館での文献収集、パリ第10大学のインド洋・マダガスカル研究会に参加、ソルボンヌ大学類型論セミナーで発表、LACITO(CNRS)のオセアニア言語研究会に参加するなど、学術交流に努めた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2011年度は、これまで報告者が携わってきた、マダガスカル語研究を広く、オーストロネシア語圏の中で比較・考察を行うために、新しい調査地を開拓すべく、仏領ポリネシアおよびチリ領イースター島をそれぞれ3カ月づつ訪問した。新しい調査地で新たな研究を開始するためには、現地の学術機関とのコンタクト、調査対象言語や調査対象地域の決定、研究協力者探しなど、すべてゼロから出発しなければならないため、最初は進展が難航する。しかし、最終的に、両方の調査地で、研究基盤が整い、良きインフォーマントに調査協力を得ることができた。学術調査から帰国後2週間後に、フランス国立東洋言語文化研究所に客員研究員として、パリに滞在していたため、あわただしい年度となったが、フランス滞在中はパリを起点に、ドイツの研究所訪問、アメリカでの学会発表、パリの学術機関での研究会参加・発表等、有意義に研究を進めることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、仏領ポリネシアのルルツ島、チリ領ラパヌイ島(イースター島)でそれぞれ3カ月間行った学術調査で得た資料を基に、分析を行う。ルルツ島で話されているルルツ語は、未だ記述がなく、タヒチ語の影響を近年強く受けた言語であるが、危機言語の保存という観点からも、今後、音声・音韻・形態・統語的観点からの分析を精緻に進め、口承文芸や植物語彙と現地での植物利用を含めた文化・社会的側面からの記述も重要であると考える。主な着目点は、(1)言語調査を行ったルルツ語やラパヌイ語の人称代名詞の体系、動詞形態論である。また、ルルツ語やラパヌイ語の動詞形態論に着目することで、これまで報告者が従事してきた、同じオーストロネシア語族のマダガスカル語の動詞形態論についての理解や分析の手がかりとなることを期待する。2012年7月に、インドネシアにて開催される国際オーストロネシア言語学会で、学術調査の成果の一部を発表する。ルルツ島や、ラパヌイ島では、植物語彙の収集に努め、国立森林組合を訪問するなど、植物の現地利用や植物や自然を利用した伝統医療、森林回復への取り組みについて資料を得た。オーストロネシア語圏に分布する植物とその自然利用についても、今後目を向けていきたいと考えている。
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Research Products
(10 results)